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    BBS変えました。前のはこちらです。

     

    語り手

    ローレシアの王子 カイ (31)
    サマルトリアの王子 ナオ (33)
    ムーンブルクの王女 ユキ (26)
    未分類 (2)

     

    記事(上に行くほど新)

    ナオ65.放浪の果てに。
    ユキ64.月のかけら。
    ナオ63.テパの朝。
    カイ62.山奥の街へ。
    ユキ61.雨露の糸。
    ナオ60.いらっしゃいませぇ。
    カイ59.コスプレ男。
    ユキ58.一番星になって
    ナオ57.何してたの?って聞いてみた。
    ユキ56.魔道士の杖。
    カイ55.強すぎる。
    ナオ54.祈りの指輪。
    ユキ53.専用の。
    カイ52.怪しい老人。
    ナオ51.逃げ出してしまったんだ。
    カイ50.ヤミ。
    ユキ49.ペルポイでお買い物。
    ナオ48.世界樹。
    カイ47.抜けない。
    ユキ46.ちんどんやになりました。
    ナオ45.怪しい神父。
    カイ44.複雑。(50expressions-16)
    ユキ43.タシスンの犬。
    ナオ42.強い者が好きだ。
    カイ41.時事ネタも書きます。(パラレル)
    ナオ40.地図を広げて。
    カイ39.ぱぷぺぽ係、初仕事。
    ユキ38.どうして(50expressions-23)
    カイ37.まいったな(50expressions-29)
    ナオ36.任命。
    ユキ35.取引。
    カイ34.竜王の城にて。
    カイ33.お隠れになりました。
    ナオ32.ラダトームの城では。
    カイ31.ゆらゆら。
    ナオ30.無理してない?
    ユキ29.北へ行こうらんららん。
    カイ28.ドラゴンの角。
    ナオ27.砂漠を越えて。
    ユキ26.遠回りの理由。
    カイ25.内緒話。
    ユキ24.次の目的地はどこ?
    ナオ23.風の吹く塔。
    カイ22.呪文かぁ。
    ナオ21.サマルトリア魔法フェスタ。(パラレル)
    ナオ20.だってぎゅーだよ。
    カイ19.王女の威厳。
    ユキ18.ありがとう。
    ナオ17.ぼくがやらなきゃ。
    カイ16.調子が狂う。
    ナオ15.もっと強く。
    カイ14.ラーのかがみ?
    ナオ13.認めたくないけど。
    カイ12.何を見たとしても。
    ユキ11.きみ、ひとりなの?
    ナオ10.かわいいなぁ。
    カイ9.ムーンペタへ。
    ナオ8.ローラの門を通るぞ。
    ユキ7.兵士との出会い。
    ナオ6.銀のカギの洞窟。
    ユキ5.ここはどこだろう。
    ナオ4.いやーさがしましたよ。
    カイ3.ったく、どこほっつき歩いてるんだあのアホは。
    ナオ2.夜逃げのように出発。
    ユキ1.ムーンブルク陥落。

     

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    命は明日枯れるかもしれないと思えば 今という瞬間の重みを知るだろう
    ラーのかがみ
    サマルトリアの王子 ナオ
    10.かわいいなぁ。

    町に入ると端っこの方に兵士の姿が見えた。
    すごいなぁ、ここの町。
    兵士の警備がついてるなんて。
    きっとこないだムーンブルクのお城が襲われたことで
    街の人たちも警戒してるんだね。

    ずっと歩きどおしだったからちょっと疲れちゃった。
    休めるところはないかなぁ。

    あ、少し先の方に木陰があった。
    あそこでちょっと休んでいこうっと。
    カイはどうするのかな?

    「あぁ、俺はいい。ちょっと情報集めてくるから
     水でも飲んでゆっくりしてるといい」

    …?
    なんか珍しく優しいぞ?
    どうしたのかなぁ。
    ま、いいや。

    お?
    犬がいる!
    わぁ、かわいい。
    近くに行っても大丈夫かな?
    見に行ってこようっと。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    11.きみ、ひとりなの?

    いきなり話しかけられた。
    座って声のする方を見上げると、男の子がいた。

    だれ?
    男の子はしゃがんでわたしと目の高さを合わせてにっこり笑った。
    「うわぁ、かわいいなぁ。ふわふわしてるー」
    頭をなでてきた。
    「リボンついてるから女の子だよね」
    そう言う男の子の顔は緩みっぱなし。
    …どこかで会ったことあるような気がするんだけど…。
    お城に来たことある人かなぁ。

    つかつかと男の子の後ろからもうひとり歩いてきた。
    この男の子よりちょっと背が高いみたい。
    「…ナオ、俺武器屋行くけどどうする?」
    「んー、ぼくこの子とお話してるー」
    「…そうか」そう言うとすぐに立ち去った。

    ナオ?目の前の男の子はナオなの?
    よく見てみると昔の面影がなんとなく残ってる。
    「くぅ~ん(気づいて!わたし、ユキだよ!)」
    「ああごめんごめん、大丈夫、まだ出かけないから」
    そう言うとナオはぺたっと地面に座った。

    がりがりがり。
    気づいて欲しくてナオの服をひっかいてみた。
    手を軽くつかまれた。ぎゅっと握ってぶんぶんと振る。
    「ひっかいちゃだめだよー、なかよしなかよし」
    …握手してるつもりらしい。

    「ぼく犬大好きなんだー」
    ナオはいきなり語りだした。
    「さっき話してたのは一緒に旅をしてるカイってやつで
     強いんだけど無口で無愛想でつまんなくてさー。
     あいつもきみみたいにかわいいといいのにねー」
    語りながらも手はずっとわたしの頭をなでている。
    「ぼくとカイさぁ、悪い奴を倒すために旅をしてるんだ。
     もうひとり仲間がいて、これから迎えに行くの。
     この町の近くのお城のお姫様なんだけど、
     すっごいかわいいんだよ」
    「わんわんっ!(それ、わたしのことだ!)」
    「ああごめんごめん、きみもかわいいってば。怒らない怒らない」

    「おーい、ナオー」
    「あ、カイが呼んでる。買い物終わったのかな、行かなきゃ」

    行っちゃう!どうしよう。付いていかなきゃ。
    「なあに?きみも一緒に行きたいの?お外あぶないよ?」
    「わんわん!(お願い!気づいて!)わん!(お願い!)」
    ナオがわたしに気づく気配はない。
    せっかく会えたのに。どうしよう、どうしよう。
    「あー…泣かないでー。おめめうるうるしてる…ちょっと待ってて。
     カイに頼んでみる」

    カイがこっちに歩いてきた。
    ナオが立ち上がって聞いてる。
    「カイ、この子も一緒につれてっちゃダメかなぁ?」
    「は?お前アホか?だめだめ」
    「ぼくがきちんとお世話するからー。
     あぶなかったらぼくがきちんと守るからー。おねがいー。
     泣いてるもん、かわいそうだよー」
    …あれじゃ駄々っ子だよ…。もっと言い方あるでしょ…はぁ。
    「だめ。俺犬きらいなの」
    「おーねーがーいー。」
    「だめだったらだめ。あきらめろ。」

    「ごめんね、カイ犬怖いからつれてっちゃダメだってさ」
    「ばっ、怖いなんて言ってない!」
    「でもだめなんでしょ?いじわるー」
    「くぅ~ん」

    ナオはもう一度しゃがんでわたしと目を合わせた。
    手はぎゅっとわたしの手を握っている。
    「ごめんね、きみを連れて行くことはできないみたい。
     本当に残念だよ。でもね」

    ナオはここで一呼吸おいてわたしをじっと見つめた。

    「ぼくたちがハーゴンを倒して、世界が平和になったら
     君のことを必ず迎えに来るよ。そしたら
     ぼくのお城でいっしょに暮らそう。…いいよね?」
    …なんかプロポーズみたいなこと言ってる。

    「じゃあまたね」
    すたすたと歩くカイ。
    何度も振り返りながらわたしに手を振るナオ。
    ついていきたい。 つれてって。
    …この姿じゃ町の外までついていくことはできない。

    わたしはふたりの後姿をずっとずっと見ていた。
    ローレシアの王子 カイ
    12.何を見たとしても。

    武器屋で武器を揃えた俺たちは
    街の南西にあるというムーンブルクの城に向かった。
    とは言っても、ナオは武器屋に来なかったから
    適当に買っておいた武器を渡しただけなのだが。

    道すがら、ナオが話し掛けてきた。
    「ねぇカイ」
    「ん?なんだ?」
    「…カイ、犬きらいなの?」
    「…あぁ」
    「そっかぁ。もしかして昔噛まれたりした?」
    「そ、そんなんじゃねぇよ」
    「えー怪しいー。そう言えばローレシアの街に犬いたよね。
     あの子にやられたとか?」
    「ちがう!いいかげんにしろ」
    「ふーんそうなんだー」
    くすっと笑いながらこっちを見てくる。ああ憎たらしい。
    「ちがうって言ってるだろ」
    拳を振り上げる真似をする。
    ほんとに殴ったりはしないが。

    「でもさー」
    「ん?」
    「さっきの子はおとなしかったし平気だと思うよ」
    「しつこい」
    「んー、なんだかねー、不思議な感じがしたんだ」
    「不思議?」
    「うん。えーとね、あの子、目がきらきらしてて、深いって言うか
     なんかどこか違うような感じ」
    「分からないな。犬はぜんぶ一緒に見えるぞ」
    「そっか、ぼくの気のせいかな」

    そうこうしているうちに遠くに城のような物が見えてきた。
    一応クギさしておくか。

    「…おい」
    「ん、なーに?」
    俺が立ち止まってナオの方を見ると、ナオもこっちを見た。
    「あのな」
    「うん」
    「…これから先、何を見たとしても、忘れるな。
     俺たちは勇者ロトの子孫だ。
     俺たちが絶望したら、世界は終わりなんだ」
    「…うん?いきなりどうしたの?」
    「…いや、何でもない」
    「変なの」

    そして俺たちは城の方角に向けて歩き出した。
    サマルトリアの王子 ナオ
    13.認めたくないけど。

    うそだろ?
    「…」
    目の前にはひどい匂いを発する毒の沼、そして
    沼の真ん中には今にも崩れそうな城があった。

    「カイ」
    「ん?」
    認めたくない、その一心で訊ねた。
    「…このお城は?」
    「ムーンブルクの城だ」
    「嘘だ!」
    「嘘じゃない」
    「だって、このお城どう見たって」
    廃墟だよ、のことばを飲み込んだ。
    言ったら本当になってしまうような気がした。

    「…行くぞ」
    カイは城に向かって進み、毒の沼に踏み込んでいく。
    ぼくも行かなきゃ。でも足がすくんで動かない。

    さっきのカイのことばが頭の中でこだまする。
    「これから先、何を見たとしても」
    そうだ。ぼくはまだ見てない。何も見てない。
    ユキを、ユキを助けなきゃ。
    そして毒の沼に足を踏み入れた。
    じゅっと足に毒がしみる。
    沼からは凄まじい腐臭が漂い、息が苦しい。
    足をとられそうになりながら、何とか城に入った。

    城の中もひどい状態だった。
    崩れかけた壁、焼け焦げた床、むせ返る血の匂い、
    開けっ放しになっている宝箱、倒れている玉座。
    ふと先の方を見ると、大きい火の玉がゆらゆらと漂っていた。

    カイが火の玉に向かって歩き出す。
    「危ないよ、襲われたらどうするんだよ」
    声をかけても聞かずに進む。
    仕方がないので後ろをついていった。

    「…誰か…おるのか?」
    不意にどこからか声が聞こえた。
    あれ?ここにはぼくとカイしかいないよね?
    空耳かと思って耳をすますと、声は火の玉から聞こえてきた。
    もしかして…人魂?

    「誰だ」
    カイがいきなり人魂に話し掛けた。
    でも、誰だって…他に言い方はないのかなぁ。

    人魂は静かに語りだした。

    王様?
    …わしはムーンブルク王の魂じゃ…
    …わが娘ユキは…呪いをかけられ
    …犬にされたという…おお…口惜しや…


    王様?この人魂は王様なの?
    え?ユキが犬に?犬…?
    まさか!
    頭にさっきまで一緒にいたムーンペタの犬が浮かぶ。
    あの犬が…もしかしたらユキ?
    そんな、そんなことって。

    カイが王様の前で片膝をついて言った。
    「…安心してください。
     姫は…俺たちが必ず助けます。だから
     …もうゆっくりと休んでください」
    カイが王様に誓う。
    ぼくも心の中で決意を新たにした。

    犬になってしまったというユキ。
    今…どこにいるんだろう。
    どうやってもとの姿に戻せばいいんだろう。
    ぼく、そんな魔法知らない。
    どうすればいいんだろう。
    ローレシアの王子 カイ
    14.ラーのかがみ?

    城内にまだ情報があるかもしれない。
    そう思った俺たちはもう少し探索をすることにした。
    とりあえずかつて中庭であったであろう場所を目指した。

    部屋の隅に人魂が漂っていた。
    ムーンブルクの兵士だった者だろうか…?

    東の地に…
    …ここから…東の地に…
    …4つの橋が見える…小さな沼地が…あるという…
    …そこには…ラーのかがみがっ!
    …これを伝えるまで…わたしは…死にきれぬのだ…。

    「ねえカイ、ラーのかがみってなにかなぁ」
    「…さあ?聞いたことないな。」
    「でもきっと大事なものなんだよね」
    「…そうだろうな。」

    再び城内の探索を開始した。
    あと探していないのは…地下室だけか。
    薄暗い地下室への階段を下りた


    兵士がいる。まだ生きているみたいだ。
    急いで駆け寄る。

    「おいっ、大丈夫か?」
    …ひどい傷を負っている。

    息も絶え絶えな彼が何か語り始めた。
    声が聞き取りづらいので、彼の口元に耳を寄せる。

    「姫様は呪いで姿を変えられ、どこかの町に…
     わたしは…姫様をお守りすることができなかった…」

    ぶわっ
    いきなり彼の体を炎が包む。
    「あぶない!カイ、離れて!」
    ナオに強く手を引かれ、後ろに下がった。
    炎の中から彼の声が響いた。

    ラーのかがみがあれば…
    「ラーのかがみがあれば…姫様をもとの姿に戻せる…!」

    激しい炎はやがて消え、さっきまで兵士の姿をしていた彼は
    ムーンブルク王のように人魂となった。

    …姫様を…姫様を頼む…
    彼の悲痛な呟きが地下室にこだました。

    ラーのかがみを手に入れなければならない。
    新たなる目標と希望を手に
    俺たちはムーンブルクの城をあとにした。
    サマルトリアの王子 ナオ
    15.もっと強く。

    城を出たぼくたちは、ラーのかがみがあるという
    毒の沼地を捜して、東の方に向かった。

    ぼくはカイにどうしても聞いておきたいことがあったので
    歩きながら切り出した。

    「ねぇ、カイ」
    「ん?」
    「…ムーンブルク壊滅のこと、知ってたんだろ?
     どうして教えてくれなかったの?」

    突然、カイが立ち止まった。
    くるっと振り返りじっとぼくを見ている。
    「…」
    …何を言おうとしているんだろう。

    「…城に、ムーンブルクの兵士が来たんだ。
     彼は、すぐに手当をしないと助からないような重傷で
     でも、それよりも先に俺の親父に会わせてくれと」

    初めて聞く話だった。
    てっきりぼくは、ムーンブルクから伝書鳩が飛んできて
    「モンスターにこの間襲われた。そちらも注意」
    その程度のことかと思っていたんだ。
    カイの話は淡々と続く。

    「彼はムーンブルクの壊滅を親父に告げると息絶えた。
     そして俺の親父は俺に打倒ハーゴンの命令を出した」

    「ナオ」
    突然カイの眼光が鋭くなった。
    「お前は何の為にこの旅に出たんだ?」

    「ぼくは…」

    …何も言えなかった。
    人の死、世界の破滅、そんなことを想像すらせずに
    ピクニック気分で旅に出た自分が恥ずかしかった。

    「俺はもう目の前で人が死ぬのを見たくない。
     だから、絶対にハーゴンを倒してこの戦いを終わらせる。
     それが…勇者ロトの子孫である俺たちの務めじゃないのか?」

    いつものようにぶっきらぼうにではなく
    何かを教えるようにカイは語っていた。

    「お前に覚悟が出来ないまま知らせたくなかった。
     長い旅の中でこれからもっと辛いことがあるかもしれない。
     怖いなら…サマルトリアに帰ってもいいんだぞ?」

    …帰る?サマルトリアに?
    突然目の前に提示された選択肢。
    居心地のいいお城が心に浮かんで消えた。
    次に心に現れたのは…
    涙を浮かべてぼくに何かを訴えていたムーンペタの犬だった。
    …ユキを…助けなきゃ。

    顔を上げてカイの目を見た。
    あんなに強い目はまだ出来ないけれど、カイに言った。

    「サマルトリアには帰らない。
     ぼくも…ロトの子孫だ」

    「…そうか」
    そう言うとすたすたと歩き出した。
    ぼくも慌てて後を追う。

    いつか、ぼくもカイみたいに強くなれるかな。
    力だけじゃなくて気持ちも。
    もっと、もっと強くなりたい。

    顔をあげてカイの背中を見た。
    肩越しに橋が見えた。
    橋の向こうには…毒の沼地。
    きっとあそこだ。

    目の前の背中をかけ足で追い越した。
    ローレシアの王子 カイ
    16.調子が狂う。

    はぁ。
    なんだか語ってしまった。
    こんなに真面目に語るつもりなかったのに。
    どうもこいつといると調子が狂う。

    でもまぁ、何か決意したみたいだし、いいか。

    そんなことを考えていたらいきなり
    俺の横をナオがかけ足ですり抜けて行った。
    洞窟のキングコブラのときのこと忘れたのか?
    単独行動は慎めとあれほどっ…

    目の前のナオはずぶずぶと毒の沼地に足を踏み入れていく。
    …あいつ…何も学んでないかもしれない。

    っと、黙って見てる場合じゃないな。
    俺も手伝うか。
    サマルトリアの王子 ナオ
    17.ぼくがやらなきゃ。

    毒の沼に一歩足を踏み入れると
    じゅっと白煙が立ち上った。
    ブーツの間から緑色の泥水が入ってきて
    触れたところが溶けたように熱くなった。

    「ナオ!沼から上がれ!俺が探す!」
    後ろからカイの慌てた声が飛んできた。
    振り返るとカイがこっちに向かって走っているのが見えた。
    でも。

    「いい、ぼくが探す!カイはそこにいて!」
    「!」
    びっくりしたようにカイの足が止まった。

    沼から立ち上る腐臭にむせそうになりながら叫んだ。
    「ぼくもがんばらなきゃだめなんだ。
     このままじゃぼく、前に進めない。
     もう、甘えてる場合じゃないんだ。
     ごめん…もう少し待ってて」

    手で沼の中を探り、足の痛みに耐えながら返事を待つ。
    じわじわと体力が奪われていくのが分かる。
    ずきずきして集中できなくてホイミが唱えられない。

    「…わかった。敵がきたら俺が何とかする。
     かがみを探すのはお前に任せた。
     …これ使え」

    ぽーんとカイが何か投げた。
    慌てて沼から手を抜き受け取ると、薬草だった。
    「頼むぞ」

    「え?」
    あのカイがぼくに頼むって言った。
    ぼくのこと、認めてくれたのかな。
    いや、認めてくれるかどうかは、ぼくがきちんと
    やることをやってからの話だ。
    …がんばらなきゃ。

    カイからもらった薬草を口に含みながら捜索を再開する。
    水の底が見えないから手探りでぜんぜんはかどらない。
    薬草もなくなって目の前がぼやけてきた。
    少しずつ沼の中央まで足を進めると、
    つま先が何かに引っかかって転びそうになった。
    え?今の何?
    急いでつま先のあたりに手を伸ばす。
    肩まで毒の沼に浸かった所で手が何かかたい物に触れた。
    掴んで沼から引き出してみると、それは
    金色の縁取りがされた、一枚のかがみだった。

    あった…!
    汚い沼の中にあったのに、かがみには傷ひとつなく
    沼の水を弾いてきらきらと輝いていた。
    「…あった…」
    かがみを高く掲げてカイに向かって
    「あったよー」
    そう叫んだらなんだか体制がぐらっと崩れた。

    ずるっ
    足元が滑って沼の中で転んでしまった。
    ずぶずぶと体が沈んでいく。
    沼の水がどろどろして思うように動けない。
    カイに助けを求めようとしたけど
    首のあたりまで泥に埋まってしまってうまく声が出せない。

    「ナオ、しっかりしろ!」
    「…カイ…?」
    カイがぼくの体を沼から引きずり出そうとしてる。

    沼から引きずり出されたぼくは
    カイがまたくれた薬草を食べて
    何とかしゃべることができるようになった。
    「カイ…ぼく…やったよ…」
    「…ああ、よくやった」

    体は沼の水でどろどろだけど
    足や腕は毒でずきずきするけど
    一歩前に進めたような気がした。

    「…かがみはお前が持っていろ。
     それでユキを助けるんだ」
    「…うん」
    「さ、町に帰ろう」
    カイがキメラのつばさをリュックから出して
    空に向かって放り投げた。
    次の瞬間、ぼくたちはムーンペタの町の前にいた。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    18.ありがとう。

    最近日課となりつつある
    ムーンブルクの兵士の彼との午後のひと時を
    ぼんやりと過ごしていたら、
    向こうから見覚えのある人影が歩いてくるのが見えた。
    歩いてくるのはナオ、後ろの方でカイが木にもたれて立っていた。

    「おいでー」
    ナオが手招きしてる。
    兵士が促すようにわたしをなでたので
    わたしはナオのもとに走っていった。
    「くーん」
    「ちょっと待っててね」
    そう言うとナオはリュックをがさごそと漁って
    何か大きくて平べったいものを出した。

    「わう?(それなあに?)」
    「このかがみを見てごらん?」
    え?
    思わず後ずさった。
    「きゃん!(嫌!)」
    「え?どうしたの?こっちにおいで」

    犬の姿になってからのわたしは
    極力自分の姿が映るものを避けて過ごしてきた。
    商店の窓、泉の水、水たまり…
    事実だと言うのはわかっていてもやはり
    自分が犬であるということを認めるのには抵抗があった。
    どうしてナオはわたしにかがみなんて見せようとするの?
    わたし、かがみなんて見たくないわ。

    ナオに背を向けて兵士の元に走る。
    兵士がしゃがんでわたしを迎えようとしていたから
    その腕に飛び込もうとした。
    たぶんわたしがいじめられていると思ったのだろう。
    でも、後ろからナオの大きな声がした。

    「ユキ!」

    ぴたっ
    足が止まった。
    今、ナオ、ユキって呼んだ?
    もしかして…わたしのこと…分かってくれたの?
    あまりのうれしさに泣きそうになる。

    ゆっくり振り返ってナオの顔を見上げると
    ナオはにっこり笑ってもう一度
    「ユキ、おいで」
    確かにそう言った。

    一歩一歩近づいてくるナオ。
    あまりのことに混乱して体が動かない。
    ナオはわたしの目の前に来るとしゃがんで
    もう一度さっきのかがみを出して言った。
    「これを見てごらん。
     ぼくが君のことをもとの姿に戻してあげるよ」

    きっと…何か特別なかがみなんだわ。
    横目でちらっと見ると高級そうな縁取りが見えた。
    怖いけど…見てみよう。

    ゆっくり目を開けて、鏡のほうに顔を向けた。
    恐る恐るかがみを覗き込むとそこには…
    人間の姿のわたしが映っていた。
    …え?
    もう一度見ようと目を見開いたら
    かがみがまぶしい光を放って
    あっという間にわたしを包んだ。

    あぁ、このあたたかい光…とても気持ちがいい。
    なんだか…懐かしい気がする…何だろう…?

    ぱりーん!
    目の前のかがみが砕け散った。
    破片が飛んでこないようにとっさに手で顔を覆った。

    「…え?」
    今わたし、何をした?
    手が…動く。
    ぺたぺたと腕や顔や頭を触ってみた。
    「…夢じゃ…ない」
    足元を見ると見慣れたわたしの足が見えた。
    うれしくて思わず涙が出てきた。

    光がおさまってだんだん周りが見えてきた。
    ナオの顔が見えた。満面の笑みを浮かべている。
    この人が…わたしをもとの姿に戻してくれたのね。
    感極まってナオの首に抱きついた。

    「え?え?」
    「ありがとう…ありがとう…」
    涙が溢れて声がうまく出ない。
    でも、これだけは伝えたくてずっと
    ありがとうを繰り返した。

    戻れた…。
    犬の姿から人間に戻れたこの日。
    わたしはこの日を一生忘れないだろう。
    ローレシアの王子 カイ
    19.王女の威厳。

    ようやく泣き止んだユキと
    いきなりの抱擁の混乱から目覚めたナオが
    こっちに向かって歩いてきた。

    「カイ、やっぱりあの犬がユキだったんだよ。
     ユキ、人間に戻れたんだよ。
     ぼくうれしいよぅ」
    「…よかったな」
    手放しで喜んでいる。
    まぁ、それはそうだろうな。
    あれだけ苦労して取ったかがみが役に立ったんだ。
    しかも大好きなユキが元に戻ったとなれば
    うれしくて当たり前だ。
    と、こっちを見ているユキと目が合った。

    …美人だな。好みではないが。

    「改めてお礼を言うわ。
     ナオ、カイ、助けてくれてありがとう。
     ずっとあの姿のままだったらどうしようかと思っていたの。
     …あなたたちが知っているとおり、ムーンブルクは
     魔物の襲撃を受けて…」
    「…あぁ」
    ユキの瞳がふっと翳った。
    やっぱり親父のことが気になるんだろう。
    でもそれは一瞬のことで、すぐに顔を上げ強い瞳で見つめてきた。
    「わたしもあなたたちと一緒に行かせてほしいの。
     お父様やお城のみんなをひどい目に遭わせたハーゴンを
     なんとしても倒したいのよ」
    「…長い旅になるかもしれないぞ?」
    「かまわないわ。
     ハーゴンを倒すまではムーンブルクには帰らない。
     わたし、そう決めたのよ」
    「…いいのか?ムーンブルクの城にはおまえの親父が」
    「言わないで!…もう、決めたの」
    「…わかった。じゃ、今晩この町で休んだら出かけよう。
     俺は情報を集めてくるから、ナオとユキは宿に行って
     先に休んでいるといい」
    ちょっと気を利かせておくか。
    珍しくナオもがんばったことだしな。
    「うん、ありがとうカイ。じゃ、ユキ、宿に行こうか」
    「ちょっと待って」
    「なあに?」
    「ごめんなさいナオ、先に行ってて。わたしもすぐに行くわ」
    「ん?どこか行くの?ひとりで平気?」
    「大丈夫よ。すぐ戻るわ」
    そう言うとユキは町のはずれの方に歩いていってしまった。
    残念だったなナオ。
    「じゃ、ぼく宿に行ってるね」
    「あぁ」
    心なしか落胆しているように見えなくもないが…気にしないでおくか。

    ナオが宿に向かうのを見届けてから
    俺はユキがさっき行った方に向かった。


    あれは…ユキと…一緒にいた兵士か?
    …何を話しているんだ…?
    ちょっと近づいてみるか。

    「申し訳ございません!
     私は、あの犬が姫様だったとは気付かずに
     なんと無礼なことを!」
    がばっ
    兵士が土下座するのが見えた。
    そのまま兵士は言葉を続けた。
    「私はあの日、王様や姫様をお守りせず
     ひとりこの町に逃げた卑怯者です。
     姫様、大変申し訳ありません。
     謝ってすむことではないのは分かっております。それでも」
    「もういいのよ、顔を上げて」
    ユキが兵士の横に膝をついた。

    「あなたは悪くないわ。
     大丈夫、わたしは生きています。
     あなたも生きていてくれてよかった。
     もう自分を責める必要はないのよ。
     これからは、この町の人たちを守ってほしいの」
    「…姫様…」

    「無礼だなんて思っていないから気にしなくていいのよ。
     あなたがいてくれたおかげで、犬でいる間も
     絶望せずにすんだのだから」
    「あ、ありがとうございます!」
    「それではわたしはそろそろ行くけれど、
     この町のこと、頼みましたよ」
    「はい!わたしの命に代えても守り抜きます!」
    「頼もしいけれど…命を粗末にしないでね」

    すくっとユキが立ち上がり、その場から去った。
    何と言うか…俺やナオにはない威厳みたいなものがあるな。

    さて、情報を集めに行くか。
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