「これを見てごらん。
ぼくが君のことをもとの姿に戻してあげるよ」
「え?」
沼から町に戻ったとき
不意にあのときのナオの台詞が耳に蘇った。
キョロキョロと辺りを見回しても誰もいない。
当たり前よね、ナオはここから遠いベラヌールにいるんだもの。
「…あれ?」
うなされていた姿を思い出して、ちくりと胸が痛んだ。
ナオが望んだこととは言え、やはり付いていればよかったと思う。
「ユキ…ベホイミ使えるんだ…すごい」
「…え?」
また声が聞こえた気がした。
憧れたような、諦めたようなまなざしと共に。
「…どうしたのかな私。ちょっと変」
さっきから頭の中にナオの声が響く。
「ユキ…ぼくたちは仲間だよ。
ずっと無理してなくても、愚痴こぼしたり泣いたりしてもいいんだよ」
何で?
何でこんなに思い出すの?
もう一度立ち止まって辺りをぐるりと見回す。
やっぱり誰もいない。
カイも宿に戻ってしまった。
「ユキ、ここは僕が食い止めるから、カイをつれて逃げるんだ」
まただわ。
怒涛のように頭の中にナオの言葉たちが流れ込む。
いつも優しかったのに、
いつも気にかけてくれたのに、
ナオは私のこと見つけて助けてくれたのに、
私はナオを助けることができなかった。
どうして私はあの時、ナオを残して立ち去ってしまったんだろう。
青白い顔で洞窟に横たわるナオの姿がはっきりと目の裏に浮かんだ。
後悔に目の前がじわっと滲んだ。
「…何かあったのかもしれない」
たまらなく会いたくなった。
胸が締め付けられるようにぎゅっと痛んだ。
ぐいっと袖口で目をこすると
村の入口に立つ小屋が目に入った。
金のカギがかけられた扉の奥に何がいるのか気になるけど
カギはナオが持っている。
手を伸ばせば開けられそうな気がした。
今は無理でも、近い将来そうなるという確信に満ちた予感。
でも。何故かそうしちゃいけない気がした。
「ここはあとでナオに開けてもらうのよ」
誰にともなく呟いた。
「…帰ろう」
宿ではカイが待っている。早く戻らなきゃ。
「一番星になって、お空の上からずっと見ててくれるんだよ」
あれは…そうだ。昔言われた言葉。
何の気なしに空を見たら、夕暮れの空にぽつんと光る星があった。
「…一番星だ…」
いつもは親しみを込めて眺めるその星から不意に目をそらしたくなって
ぎゅっと目を閉じた。
俯いて宿への道を急いだ。