「おうおう、よくぞ来た」
町の南の島に立つ塔に入り、たくさんの階段を昇って降りた先には小部屋。
ここで私たちを出迎えたのはひとりの老人だった。
「何でこんなところに居るのかしら」
「家出したのかなー」
ナオとふたりでそんなことを小声で話す。
そんな私たちにはお構い無しに、老人はカイに話しかけてきた。
「そなたたちにこれを授けよう」
そう言って、何か黄色い手のひらサイズの石をカイの手に渡した。
「これは?」
「月満ちて欠け、潮満ちて引く。すべてはさだめじゃて…」
「…?」
答えになってないよおじいさん!
「あのー。どうしてこんな所に?」
カイがずばっと質問すると、ナオが焦ってカイに小声で話しかけた。
「ちょ、ちょっと、家庭の事情とか色々あるかもしれないじゃん!
そんなこと聞いていいの?」
「や、だって不思議だし」
「その方がかっこいいからのお」
は?
どうやらこの老人は、塔の中で待っている方がかっこいいので
わざわざこの塔に来て私たちを待っていたらしい。
そのために長い道のりを歩いてきた私たちや
心配する家族の立場っていったい…。
ともかく、その謎の石をもらった私たちは
早々に老人の前を去り、テパの町に戻った。
かっこいいからという理由で塔に引きこもるくらいの老人なら
きっと帰りもひとりで平気でしょ。
宿に戻り、カイにその石を見せてもらった。
「わあ、結構かわいい形してるじゃない」
その石は三日月の形をしていた。
「月…?何に使うのかな。きっと大事なものだよね」
「もしかして、ザハンで聞いた奴かな」
「え、なあに?」
カイが何かの情報を聞いていたらしい。
「あー、いつだったかな。あ、そうだ。
ユキが犬と話をしてたあたりのことだったが」
「別にそれはどうでもいいんだけど」
「町の女の人が言ってたんだよ。
海のどこかの洞窟に入るには、月のかけらが要る、って」
「海のどこか?かなり曖昧な情報よね」
「ああ。何でも、その洞窟は浅瀬に囲まれているのだとか」
「ふーん。見たことないなー。まあ、覚えておけば役に立つかも」
海のどこかって言われても、広すぎるわ。
大体のめぼしをつけてから探さないと。
そう思って、世界地図を机の上に広げた。
「今ここよね」
テパを指差す。
「行ってないのって、どこら辺かしら。
あらかたまわったような気分でいたけれど」
「うーん、海だよね。
デルコンダルの周りのあたりはあまり見てないよね」
「そうだな」
「じゃあこのあたりの海域をしらみつぶしに探しましょうか。
広いから大変だけど、仕方ないわね」
私がそう言うと、カイの顔色が変わった。
「ずっと船かよ…気が重い…」
「仕方ないよ、他に情報ないし。ゆっくり行こうよ」
「いやむしろさっさと済ませてほしいんだが」
そこまで船が苦手だと、確かに長い船旅はかわいそうだけれど。
「とりあえず今日は疲れたから、もう休もう」
明日からのことを考えているのか、心なしかげんなりした顔をしているカイ。
「そうね。じゃ、また明日」