見えない謎の糸を見つけた俺たちは搭から降りた。
さて、これからどうしようか。
「ねえ、まだこっちには行ってないんじゃない?」
ユキが指差したのは地図の真ん中あたり
ここからだと船で海に出たあとに川をのぼっていく感じになるか。
「確かにここはまだ行ってないな。でも、何もないかもしれないぞ?」
「まあそうだけれど、いつもそんな感じだったじゃない。
特に行く場所が決まってなければ、こっちに行ってみない?」
「ぼくはかまわないけど」
「ん、じゃあ行ってみるか」
そして俺たちは船に乗り込んだ。
「ナオ、さっきの糸なんだが」
「あ、見る?」
ナオがかばんから糸を出そうとする。
「いや、出さなくてもいい」
見えないものを落としたら探すのが大変そうだ。
「あ、そう?…で、この糸がどうかしたの?」
「ああ、…何に使うのかと思ってな」
「見えないといろいろ便利なんじゃない?」
「そうか?不便なことの方が多くないか?」
「そう?面白いと思うんだけど」
「まあそのうち使う時も来るかもしれないから、無くさないようにな」
「はーい」
まもなく川が見えてきた。
俺たちの船くらいなら何とか通れそうな幅だ。
川沿いを歩こうかとも思ったが、かなり道は険しい。
「よし、川をのぼるぞ」
「きゃあ!」
「どうした!?」
後ろからユキの悲鳴。振り返ると
斧を持った人型のモンスターが船に乗り込み
ユキに襲い掛かっていた。
甲板にしりもちをつき、今にも斬りかかりそうなモンスターに対して
ユキは杖を伸ばして呪文を唱えた。
「マヌーサ!」
紫の霧がモンスターを包む。
「ベギラマ!」
すかさずナオがその霧に向けて呪文を放つ。
すごいな、魔法使いの連携。…悔しくなんかないぞ。
俺がすることもほとんどないまま戦闘は終わった。
「大丈夫か?」
「ええ。ちょっとびっくりしたけど、平気よ」
そう言うとユキは立ち上がって服の後ろの砂を払った。
「…ねえ、このあたりのモンスターって何か強くない?」
ナオの言葉に頷くユキ。
「確かに、大陸ではあんなモンスター見たことなかったわね」
「…そうなのか」
戦ってないからいまいちよく分からない。
「大丈夫だよ。ぼくたちはひとりじゃないし」
「そうね」
「あれ、行き止まりだ」
「ここが河口だから、この先は歩くしかないな」
「仕方ないわね」
俺たちは船を降りて歩くことにした。
しかし険しい道だ。こんなところに本当に何かあるのか?
「あ、あれ見て!」
ナオが指差す先には街らしき建物があったが
ここからだとぐるっと迂回しないと行けないようになっている。
「よし、じゃああの街で一休みしよう」
目的地が見えると張り合いが出るからだろうか
自然と俺たちの足も軽くなった。
「ねえカイ、あの搭何かしら」
さあ街に入ろうというときにユキが指差したのは
町の向こうにある小さい島に建つ搭だった。
「うーん、ここからだと船に乗らないといけないけど
ここまで船が来れないんだよな。どうやって入るんだろう」
「とにかく街に入って話聞いてみようよ」
そして俺たちは街に入った。
どうやらここはテパという街らしい。
街の真ん中を大きな川が流れていて、轟々と音がする。
「テパ…聞いたことあるわ」
「ん?」
「羽衣作りの名人がいるとか何とか」
「じゃあ探してみるか」
一軒の民家に入ると、大きな機織器があり
その前には老人が座っていた。
「あのー」
ナオが控えめに話し掛けると、老人の顔がぱっと輝いた。
「材料を持ってきたか。わしの負けじゃ。そなたたちに羽衣を作ってしんぜよう」
は?いきなり負けとか言われても。
「そなたたちの持つ聖なる織機と雨露の糸を」
とか言いながら手を出す老人。
聖なる…ああ、牢屋にあったアレか。
ちょうど重かったし、さっさと渡してしまおう。
ナオもかばんから糸らしきものを出して老人に渡した。
「では明日また来るがよい」
「羽衣ってどんなのかなあ」
「明日になれば分かるさ」
「楽しみーー」
そんなことを話しながら歩いていると、ひとりの女性が駆け寄ってきた。
「旅の方、どうかお助けください!」
いきなりだな。
「どうしました?」
「ラゴスというものが、水門のカギを盗んで逃げたのです!
水門が開かないと大変なことに!
どうか、ラゴスをつかまえてください!」
いくら切羽詰まっていても見知らぬ人間に頼むことだろうか。
まあ一応話は聞くか。
「大変なこと?」
「搭にはうちのお爺さんが…」
搭?外の島にあった搭のことか?
「水門が開かないと搭に行けないのです。ああ、お爺さん…」
何でそんなところに爺さんがいるんだ。
うろたえている女の人を見たユキがぼそっと言った。
「水門のカギってこれですか?」
ポケットからカギを出して女の人に見せる。
「あああそれです!それで、早く水門を開けてください。
水門は街のはずれにあります!さあ!」
追い立てられるように街のはずれに向かった。
街のはずれには小さな小屋。
中に入ると頑丈なカギがかかった扉があった。
どうやらこのカギを開けると水門が開くらしい。
俺たちが立っている場所はちょっと高くなっているので
水がどっと押し寄せる、というようなことにはならなそうだ。
「これかしら」
「たぶんな」
ユキが鍵穴にカギを差し込み、くるっと回した。
すると、どこか遠くからごごごという大きな音が鳴って
あたり一面は水で一杯になった。
「開けたけど、何か変わったかしら」
「さあな。とりあえず街に戻るか。疲れたし今日はここに泊まろう」
そして俺たちは街の宿に泊まることにした。