アレフガルドから船を出して程なく、わたしたちはドラゴンの角に着いた。
以前ここに来た時には、そんなにじっくりと中を探検した訳ではなかったし
そもそも雨露の糸情報もなかったから、風のマントで遊んで終わった記憶がある。
とりあえず北の塔を登ることにした。
北の塔は南の塔と違い吹きぬけになっていないので
足場をあまり気にせずに進むことができ、敵にも遭わずに目的の3階に到着した。
「着いた…けど、何もないわね」
ぐるっと周りを見回しても、糸らしきものは見当たらない。
あの頭のゆるそうな店員が嘘を言ったのかしら。
「うーん」
カイも何だかうなっている。
ナオの方を見ると…あれ?
ナオはおでこについているゴーグルを装着して、床をじいっと見ている。
「ナオ?どうしたの?」
「ああこれ。これは度入りのサングラスだよ。
ぼく、あんまり目、良くないから、何かをじっくり見たい時とか
捜し物をしたりする時にはこれつけるの」
「…飾りじゃなかったのね」
でもゴーグルを装着した姿はあまりかっこいいとは言えない。
「あ」
ナオがそう呟いて、しゃがみこんでタイルの目地のあたりを指でなぞった。
「…これかな?」
何かを指でつまんでひっぱるような動作をしている。
その何かを両指でつまんで太陽に透かしている。
「あったあ!きっとこれだ!」
でも、どう目をこらしても、ナオが持っている物が見えない。
昔読んだ童話を思い出した。
…この糸で作った洋服は透明なのかもしれないわ。
「何してるの?」
「ああごめん。ユキ、ちょっと両手を前に伸ばしてみてくれる?」
「…?」
言われるがままに手を前に伸ばすと、
ナオがわたしの両手の周りに何かをくるくると巻きつける動作をした。
「…何やってるんだ?」
カイも不思議そうにナオの手つきを見ている。
手に何かが巻かれる感触がある。
何か細いもの…きっとこれが雨露の糸なのだろう。
ナオはまだくるくると手に糸を巻きつけている。…けっこう長い。
「終わったー」
そう言うと、ナオは糸の端っこを糸の束に巻きつけてくるっとまとめると、
わたしの手からそっとはずした。
…多分。よく分からないけどそんな動作をした。
「これ、ぼく持っててもいい?」
「ああ。でも、よく見えないから失くすなよ」
「うん。大事に持ってる」
そう言うとナオはその糸束らしきものをかばんにしまって
ゴーグルをおでこに戻した。
でも、これ、何に使うのかしら?