
作者注:この話で登場する水着は、MSX版ドラゴンクエストIIでのみ手に入れられるものです。
ああ陸だ。やっぱり陸はいいなあ。
足場が揺れないって何てすばらしいんだろう。
大きく伸びをして深呼吸をする。
俺たちは、長い船旅の末に、ようやくアレフガルドに着いた。
今回の目的は、ナオが見た王様らしき人物と会うことと
リムルダール南のほこらの老人をぎゃふんと言わせることだ。
「武器屋の2階だったっけ?」
「うん、こっちだよ」
先を歩くナオに付いて行く。
王様に会ったら言いたいことがあった。
なぜ隠れているのか。ずっとこのままのつもりなのか。
国王としてそれはどうなのか。
「着いたよ」
武器屋横の階段を上り、金のカギの扉の前でナオが言った。
「じゃ入るか。開けてくれ」
「了解」
かちゃ、という小さい音を立ててカギが開いた。
中には王冠をかぶり、分厚いローブを着た人物が、窓の外を眺めていた。
俺達が入ったのに気づき、ゆっくりと振り返る。
「…誰じゃ?」
「俺たちは、ロトの勇者の子孫です。
ハーゴンを倒す為に世界を旅しています。
失礼ですが、あなたはラダトーム王ですか?」
王様の格好をした人物に王ですかと聞くのもどうかと思ったが聞いてみた。
「違うぞよ。わしはただの武器屋の隠居。こんなところまでご苦労だったのう」
は?違うって?
「王様じゃないならどうしてそのような格好をしているんですか?」
ナオが尋ねると、彼ははっはっはと高く笑って答えた。
…その高笑い、王様のような気がするんだけどな。
「コスプレじゃよ。いろんな人物の格好をしてその人物になりきる。
最近のわしの趣味でな」
と、そのコスプレ男がユキに目を向けて言った。
「おおそこのかわいいお嬢さん。そなたにぴったりの衣装があるのじゃ」
「え、わたしですか?」
いきなり話しかけられたユキがきょとんとしている。
コスプレ男は洋服たんすから何かの布を大事そうに取り出し、俺たちの前に誇らしそうに広げて見せた。
どうやら水着のようだが…布、少なっ!
こんなの着たら風邪引くに違いない。
「これは由緒正しきあぶない水着。
きっとそなたの身を守ってくれるぞよ」
由緒正しいのにあぶないのか。確かに露出部分が多くてあぶないな。
こけたらいろんなところをすりむきそうだ。
「いりません」
即答するユキ。
「ね、ねえ、くれるって言うんだからもらっとけば…」
「嫌よ」
ナオが言っても気持ちは変わらないらしい。
だんだん顔が険しくなってきた。…怒ってる?
「そうか、残念じゃのお。まあ仕方がない。
ハーゴンを倒したらまた来るがよい」
そう言うとコスプレ男は名残惜しそうに水着をたんすにしまった。
「ねえどうする?」
ナオが小声で聞いてきた。
「ん?本人が違うって言うんだからそれ以上何も聞けないだろ。
とりあえず今日は帰るしかないんじゃないか」
「そうね。と言うかさっさと行きましょ」
ユキは一刻も早くこの部屋から出たそうだ。
「それでは俺たちはこれで失礼します」
「ん、待っておるぞ、ユキ姫」
ぺこりと頭を下げ、部屋を出る。
「あれ?」
1階に着いてからユキが呟いた。
「ん?どうした?」
「わたし、あの人の前で名乗ったかしら…?」
「そう言えば、俺たち自己紹介はしたけど名前は名乗ってないな」
「さっき、確かにユキ姫って言ったわ」
「じゃあ、やっぱりあのおじさん、王様なんだよ。
王様だったらユキの名前知っててもおかしくないし」
「そうなのかしら…」
「まあ、今の時点ではこれ以上話もできそうにないし
ハーゴン倒したらって言うんだから、倒したらまた来よう」
「うん、そうだね」
何だかしっくり来ないものはあるが仕方ない。
「ねえカイ、あの扉何かな」
ナオが指差す先を見ると、金のカギがかかった民家があった。
「…?民家に金のカギ?怪しいな。行ってみるか」