もうこんな気持ち悪いところは通りたくない。
そんな思いで旅の扉を後にしてローレシアの城に着いたのだが
よく考えたら船は扉の向こうにあるわけで
あと最低1回はこんな思いをしなければいけないのだと気づいた。
「さて、じゃ、牢屋に行くか。準備はいいか?」
「ちょっと待って。作戦会議とかしないの?」
ナオが聞いてきた。
「…なるほど。相手は人外の者だしな。
じゃ、軽く計画立てるか。何かいい案あるか?」
「完全に人任せね」
呆れたように言われる。
「いや、俺はどんな敵が来ても殴るだけだから。
魔法使いなら何かこう、あるだろ」
「じゃあ出会い頭にユキが
ラリホーかけて
眠らせたところを殴る、でどうかなあ?」
「了解」
「お前は何をするんだ?」
「えーと、相手が魔法使いそうなやつだったら
マホトーンかけて
魔法を封じたりしようかなと。
まあ余裕があれば他のこともしようとは思うけど」
「よし、それで行こう。回復は各自早めに。俺は手持ちの薬草を食う」
「OK。じゃあそれで行きましょう」
そうして意気込んで地下の牢屋に向かった俺たちだったが
完全に甘く見ていた。
「ちょっとこの牢屋開けるぞ」
入り口にいた兵士に声をかけ、件の神父の牢屋を開ける。
「ちょっと待って。足元ダメージ床だから。
トラマナ!はいOK行こう」
足元を白い煙が覆い、ダメージ床が無効化された。
しかしこの呪文は便利だな。
「おい。貴様は何者だ?何故この牢にいる?」
一応聞いてみた。
「ほっほっほっ。わたしをここから出してくれるのですか?ありがたいことです」
「待て、誰も出すとは言っていない。質問に答えろ」

「あなたがたの亡骸をハーゴン様への手土産にしてあげましょう!」
そう叫ぶと神父の手に棘のついた棍棒が現れ、姿も魔物に変化した。
「ちょっと、あれ、悪魔神官よ」
「今の僕たちのレベルだとかなりきついよ」
うしろで色々言っているがもう後の祭りだ。
「かなりきつくてもここで倒せなければ俺たちがやられるんだ。
作戦は覚えてるな?あの通り行くぞ」
「
ラリ」
「遅いっ!」
ユキの詠唱をさえぎる一撃が入った。
「いたっ」
「大丈夫?
ベホイミ!」
「ありがとう」
ナオがすばやくユキの回復をする。
その隙に俺は魔法を唱えている途中の悪魔神官の後ろに回りこむ。
すると奴がこちらに振り返り、今唱えた魔法をぶつけてきた。
「
イオナズン!」
牢屋中を激しい爆風が襲う。
こちらを向いて放ったはずの呪文がナオたちにもかかったようだ。
ひとまずふたりの元に戻り物陰に隠れる。
「大丈夫か?」
薬草を食べながら聞く。
今までに食らったことのない威力の呪文だ。
「うん。…でもやっぱりかなりきついね。ユキは平気?」
「ええ。でもまさか
イオナズンまで使えるとは思わなかったわ」
「よし、俺が奴に切りつけて囮になるから、その隙を狙って
ナオは奴の呪文を封じてみてくれないか?
ユキはもう一度眠らせる呪文を試してみてくれ。
俺の体力はまだあるから回復はしなくていい。頼むぞ」
「了解」
「だああっ!」
殊更奴の目を引くように掛け声を上げ切りかかる。
思惑通り奴がこちらに気を取られた。
もう一度こちらに向かってさっきの呪文の詠唱を始めた。
「
マホトーン!」
!
途中で詠唱が止まった。
奴は口をぱくぱくさせているが魔法は出ない。
後ろを見るとナオがガッツポーズをしている。
「
ラリホー!」
ユキの魔法が悪魔神官にかかった。
途端に動きが鈍くなり、崩れるように床に倒れこんだ。
眠ってしまえばこっちのものだ。
ユキとナオは魔法で、俺は剣で奴にとどめをさした。
「強かったわね」
「ああ。怪我はないか?」
「平気。ナオは?」
「ぼくも大丈夫」
「俺薬草食いすぎて口の中がにがい」
ふと見ると牢屋の奥に宝箱があった。
開けてみると1本の杖だった。

「ちょっと見せて」
ユキが手を出すのでとりあえず渡すと、振ったり回したりしている。
どうやら気に入ったらしい。
「カイ、これわたし使いたいわ」
「ん?ああ俺は別に構わないからナオに聞いてくれ」
「ぼくも別に構わないよ」
「そう?ありがと」
そう言うと杖を抱えてスキップし出した。
「疲れたし宿に行くか」
自分の城で宿屋に泊まると言うのも不毛な話だ。
「そうだね」
そして俺たちは城下町の宿屋に一泊することにした。