「わあ、気持ちいい」
わたしとナオはザハンに向かう船の甲板にいた。
海からの風が気持ちいい。
カイはいつもの船酔いで船室で寝ている。
聖水を飲んでも万全というわけではないらしい。
そう言えば、旅の扉も嫌がってたような。
乗り物全般が苦手なのも気の毒だわ。
「はぁ」
最近つい考えてしまうことがまた頭をよぎり、ため息がこぼれる。
「どうしたの?何か悩みでもあるの?」
ナオが心配そうな顔でこちらを覗きこむ。
「あ、ううん、たいしたことじゃないのよ」
心配をかけてはいけない。本当に些細なことなのだから。
「えーどうしたのー、教えてよー」
それでも聞きたいらしい。
こういうときのナオは聞けるまで粘りそうな気がした。
仕方がない。話してみようか。
「えーとね」
「うん」
きらきらした目で相槌を打たれる。何を期待しているのだろう。
「いいなあって思って」
「…何が?」
きょとんとしている。まだ何も言ってないから当然といえば当然なのだけれど。
「カイにはロトのつるぎやロトの盾があるでしょ。
何かこう、専用のっていうのに憧れちゃって。…変かしら?」
絶対に変だとは言われない自信はあったけれど一応聞いてみた。
案の定、首をぷるぷると横に振るナオ。
「んーん、別に変じゃないと思うよ。
確かにぼくにもロトシリーズ装備できたけど、重くてさ。
やっぱりあれはカイ専用なんだろうね。ずるいよねえ」
わたしも持たせてもらったけど重くてすぐ返してしまった。
あれを軽々と持つカイはすごいと思う。
と、船室から噂のカイが出てきた。
「もう平気なの?ザハンまではまだまだよ」
「ああ、ちょっと風に当たりたいなと思って。…お取り込み中か?」
「ううん、別に」
「そうか、俺に構わず続けてくれ」
カイが横にぺたんと腰をおろす。やはりだるいらしい。
「どこまで話したっけ?」
「専用の話。わたしも専用の何かがほしいわ」
「例えば?」
「えーと、そうねえ、ロトの果物ナイフとか」
「…お前の中のロトはどこの主婦だ」
下からカイの声がした。だるくても話には入りたいらしい。
「えー、果物ナイフ、大事だと思うんだけど」
「果物ナイフかあ。あ、そうだ。じゃあこれあげるよ」
ナオがポケットをがさごそとやっている。何かしら。
「じゃーん!」
何かを握って上に突き上げ得意気にしている。
その右手に握られているのは…。何これ。

「これ、ぼくのぼうけんナイフ。コルク抜きもハサミもついてるんだよ」
「へぇ、おもしろい、見せて」
「はい」
初めて見る変な形のナイフはずしっと重かった。
「かっこいいでしょー。これ、将来
ナオのぼうけんナイフって呼ばれるから。
ロトのつるぎみたいにね。
大事に持ってるとすごい値打ちものになるよ」
「その自信はどこから来るんだ」
「え、だってぼくもロトの子孫だし、
これからハーゴンを倒した勇者って呼ばれる予定だから」
どこまでも自信満々に話す姿がとてもまぶしく見えた。
何だかきらきらしてて、いつもよりかっこいい気がする。
このナイフを持っていればわたしにも何かできるかもしれない
そう思える強さがあった。
「…これ、もらってもいいの?」
「うん、いいよ。もしこれが嫌だったら、ナオの爪切りもあるけど」
「ナイフにするわ。ありがと」
爪切りはどうかと思うけど。
もらったナイフを大事にポケットにしまって、ぎゅっと握った。