木登りなんて久しぶりだから
うまくいくかちょっと心配だったんだけど
何とかそれなりの高さまで登ることができた。
丈夫そうな枝に腰かけて周りをぐるっと見まわす。
カイにはああ言ったけれど
別に遠くを見るためだけにこの樹に登ったわけじゃない。
ハーゴンの城が見えればラッキーとは思っていたけれど。
ぼくは、そう、樹の上から見える景色よりも
この樹そのものに興味があったんだ。
近くにある葉を1枚取ってみる。
ぷちっと音がしてあっさりと葉を取ることができた。
ぼくの手のひらくらいの大きさの葉っぱは
樹から離れてもみずみずしい生命力を失っていないように見える。
もう1枚取ってみようと上の方の葉に手を伸ばす。
ところが、さっきとは違って
どんなに力を入れても葉を樹から取ることはできなかった。
「…やっぱりそうか」
城にあった本で読んだことがある。
この樹は多分世界樹だ。
世界樹は天にも届くほどの大きな樹で
その葉には死者を蘇らせる力があるという。
そのあまりに強大すぎる力のために、人は1枚しか
世界樹の葉を手にすることができないらしい。
さっきローレシアとサマルトリアに行ったときのことを思い出してみる。
ぼくやカイが父親と話している様子を見るユキが淋しそうだったのは
きっとぼくの気のせいじゃない。
火の玉になってしまったムーンブルク王を思い出してみる。
あんな姿になっていてもユキのことを心配していた。
この葉があればきっと。
ぼくはさっき取った葉を大事にポケットにしまい、樹から降りた。