ローレシアの城を出てちょっと歩くと
サマルトリアの城が見えてきた。
…ほんとに近いのね。羨ましい。
緑に囲まれた城下町に入ると
歓声と共に数人の子どもたちがナオに群がってきた。
「あー、おうじさまだー」
「おうじさま、おかえりなさーい」
子どもたちはナオの腕をつかんでぶんぶん振っている。
「おうじさまー、あたしすてきなお花畑を見つけたのー。
みんなにはないしょだけど、おうじさまにだけこっそり
おしえてあげるねー」
「あ、ほんと?ありがとう。楽しみにしてるね」
「おうじさまー、ぼく、あのおっきな木にのぼれるようになったんだよー」
「そうかー、すごいなー。じゃあ今度ぼくと競争しようね」
「…すごい人気だな」
ぼそっとカイが呟く。
「ほんとね。きっときちんと話を聞くからだわ」
「ん、そうだな」
「さて、そろそろ行くか。ナオの親父にも話を聞いてこよう。
おーい、ナオー」
ナオのほうに向かってカイが手を振る。
「おうじさまー、あの人だあれ?」
「ん?あれ?あれはぼくの子分だよ」
子分、の言葉にカイがぴくっと動いた。
「…そろそろ行くぞ」
「あ、はーい。
それじゃ、みんな、またねー」
「はーい」
子どもたちの輪から離れて城の方に歩く。
「…いつから俺はお前の子分になったんだ?」
「あ、ごめーん。冗談だったんだけど」
「まあいい。大したことじゃない」
「ずいぶん心が広いわね」
「まあな」
「あ、そうだ。ナミちゃん元気かしら。
ちょっと会っていかない?」
「お、いいな」
?
カイがにやっと笑ったのは気のせいかしら。
「ナミの部屋はこっちだよ。居るかどうかは知らないけど」
「まあ行ってみよう」
ナミちゃんはベッドに寝っころがって本を読んでいた。
「あれ?お兄ちゃん、何しにきたの?」
「いきなり冷たい事言うなよ」
辛辣なお出迎えだわ。
「いい質問だなー。お前の兄貴は
魔法使いをやめてちんどんやさんになったんだぞ」
いきなり何を言うのかしらこの人は。
「ちょ、まった、カイ、何言ってるの」
ナオもうろたえている。
「ちんどんやさんってなあに?」
「それはなー、楽器を演奏しながらいろんな町をまわって
人々を気持ちよくするすてきなお仕事だ」
「がっき?お兄ちゃん、何のがっきやるの?」
「ふふん、お前の兄貴は世にも不思議な笛を吹くんだぞ」
「へぇぇ、お兄ちゃんすごいわ。
そうだ!パパにも聞かせてあげなきゃ!またねっ!」
そう言うとナミちゃんは勢いよくベッドから起きて
王の間にダッシュで飛んでいった。
「…カイ…」
「ん?どうかしたか、親分?」
「…さっきはごめん」
「分かればよろしい」
なかなか大人気ない。
そしてわたしたちは王の間に来た。
王様の横ではナミちゃんが
何かを期待したようなきらきらした目でこちらを見ている。
おもむろに王様が口を開いた。
「おお、旅のちんどんやよ、よくぞサマルトリアに来た。
遠路はるばる、まことにご苦労であった。
聞くところによると、そなたたちは珍しい演奏をするとか。
是非聴いてみたい。さっそく始めよ」
なんてノリのいい王様なのかしら。
「父上~あれはカイの冗談だってば」
「何だそうなのか。つまらんのぉ」
「まあ冗談は置いといて。何か用か?」
「親子そろって同じこと言わないでよー」
「ああ、それはすまない」
「んと、お城にロトの何かとか珍しいものない?」
「ああ、あるぞ」
「どこ?持ってってもいい?」
「じいさんの部屋にあるから持っていくといい。
たまにはじいさんにも声をかけてあげなさい」
「うん、ありがと。それじゃ、またね」
「ねえ~ふえまだあ?」
「ん、えーと、ぼく急ぐからまたね」
「えー、つまんなーい」
王の間を出たわたしたちは
ナオのおじいさんの部屋に行くことにしたんだけど
ナオから信じられない言葉が出た。
「おじいちゃんの部屋…どこなんだろう」
「お前、じいさんの部屋知らないのか?」
「うん、だっておじいちゃん、ぼくが小さいときから
滅多に外に出てこない人で、ごはんもお部屋に運んでもらってたみたいなの」
「それじゃ、誰かに聞かないと分からないわね」
「あ、でも!何か昔から気になってる金のカギの扉があって
もしかしたらそこかもしれない」
「じゃあとりあえずそこに行ってみようか」
「そうね」
「ここだよ」
「開けていいか?」
「あ、うんお願い」
扉を開けると目の前には宝箱があった。
周りをぐるっと見回しても誰もいない。
さて、どうしたらいいのかしら。
ぱかっ
ナオがおもむろに宝箱を開けた。
「ちょっとナオ、勝手に開けちゃっていいの?」
「んー、…多分OKだと思って開けちゃった」
中から出てきたのは、ロトの紋章が大きく真ん中に刻まれた
青い盾だった。
「うわあ、ロトの盾だー」
「どれ、俺にも見せろ」
「はい」
カイに盾を渡すナオ。
「おー、これはいいな。…俺これ使っていいか?」
「ん、いいよ。ぼくにはちょっと重いし。ユキもいいよね?」
「ええ、別にかまわないわ」
「あれ?おじいちゃん」
ナオがいきなり声を上げた。
ナオの視線の先を見ると、さっき誰も居なかった所に
おじいさんが立っていた。
…あれ?
「おじいちゃん、この宝箱の中身、もらってもいい?」
「ああ構わんが…もう開けてしまっていたか…
せっかちな人たちじゃな」

「ありがと、大事に使うね。それじゃ、また来るから」
「ん、気をつけて行きなさい」
「はーい」
おじいさんに手を振り部屋を出た。
「ねえカイ、このあとどこに行くとか決めてる?」
「いや、特には」
「じゃあさ、ザハンに戻らない?
ぼくちょっと気になった所があるんだ」
「構わないぞ。ユキもそれでいいか?」
「別にいいわ。じゃあまた旅の扉に行きましょ」
あれをもう一度くぐると思うとわくわくしてくる。
ムーンブルクにも旅の扉があればよかったのに。
そしてわたしたちは再びローレシアに戻り
旅の扉をくぐってザハンに向かった。
でも、ナオが気になってたことって何かしら。