「おお、ナオ、ずいぶん大きくなったなあ。
お父さんは達者かね?」
「あ、はい。おかげさまで」
「そうかそうか、それはなにより」
なんとも頭にくる「うちの子になるか」発言の後
ぼくたちはローレシアの王の間に来た。
もちろん、養子縁組の挨拶のためではなく
ロトのしるし情報を聞くためだ。
「ときに親父、ロトのしるしってこの城に無いか?」
「ん?ああ、あるぞ。宝物庫に入れてあるが。使うのか?」
「ああ、ちょっとな」
ぼくたちはアレフガルドのほこらでの出来事をかいつまんで話した。
「そういうことであれば持って行くといい。
この城にあっても使わないものだ」
「宝物庫だな。じゃあ遠慮なく持っていくぞ」
用は済んだとばかりに立ち上がるカイ。
なんてせっかちさんなんだ。
「あーちょっと待て」
さっそく宝物庫に行こうとするカイを王さまが呼び止めた。
「ん?まだ何かあるのか?」
「ああ、ここまで来たついでに、サマルトリアにも寄ったらどうだ?
そんなに遠くもないし、王もきっと喜ぶであろう」
「それもそうだな。じゃ、ナオの家にも寄ろう」
「ところで、ユキ姫、この度は大変であったな。
さぞかし辛かったであろう。
これからはこのわしがユキの父親がわりじゃ。
わしにできることがあれば何なりと言ってよいぞ」
「あ、ありがとうございます」

あー、父親がわりになりたいのはほんとだったのね。
まあ特に深い意味は無さそうなので安心だけど。
「んじゃ俺たちはそろそろ行く」
「そうか、たまには顔を見せに来なさい。
ナオ、ユキ、カイのことをよろしく頼むぞ」
「はい」
何をどうよろしく頼むのかはわからないけれどとりあえず返事をした。
王の間を出たカイは宝物庫に入り
あっさりロトのしるしを持ってきた。
もっとこう、探すとかするのかと思っていたけど。
「あの扉はなあに?」
宝物庫から出たところの細い道の奥にある扉を指差すユキ。
「ああ、あれは牢屋への道。行ってみるか」
「ええ、何か分かるかもしれないし」
というわけで、扉を開け、その先の階段をくだり、地下牢に行くことになった。
「ここは牢屋。王子さまのような方が来るところではありませぬぞ」
入口の兵士に止められる。
「まあまあ堅いこと言うな。ちょっと囚人の話を聞きたい」
「分かりました。でも、お気をつけください」
「ああ分かった」
まず、一番近くに居る大男に話し掛ける。
「おい、牢屋のカギは持ってるか?」
「いや、持ってない」
「ちっ!さっさと行きやがれ」
どうやら鍵を開けてほしいらしい。
カギを持っていないぼくたちにはどうしようもない。
「あの人にも話を聞いてみたいけれど…」
ユキが指差す先には神父の姿があった。
言葉を濁したのは、神父の周りにはダメージ床が敷き詰められていて
その上牢屋のカギでこちら側と隔てられていたからだ。
ここまで厳重に閉じ込めるなんて、あの神父は一体何者なんだ?
「あの神父とも話をしたいのだが」
カイが兵士に聞く。
「申し訳ありません。王さまにもあの神父には気をつけるようにと
きつく言われております」
「ん?ただの神父だろ?何に気をつけろと?」
確かに変な話だ。
兵士は声をひそめてぼくたちにだけ聞こえるように言った。
「あの神父は、私が子供の頃から姿が変わらないのです。
数十年も同じ姿の者はやはり警戒して然るべきかと」
つまり人間ではないかもしれない、と言いたいらしい。
「そうか。それなら仕方ないな」
牢屋のカギがないとこれ以上の情報はここでは得られないようだ。
ぼくたちは兵士に礼を言って階段をのぼり
サマルトリアに向けて出発した。