作者注:ここの話はパラレルです。
原作では道具屋さんにこんなアイテム売っていません。
パラレルが苦手の方はご注意ください。
なお、この話を飛ばしても進行上何の不具合もありません。
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42.強い者が好きだ。
今日からまた船に乗るのだと思うとよく眠れなかった。
聖水で船酔いは改善されるとは言え、あの揺れは未だに好きになれない。
やはり俺は自分の足で移動する方が性に合っているのかもしれない。
長旅になる。
そう思いかばんを見ると、買い置きの聖水が少なくなってきた。
買い足しに行こう。
船旅の途中で無くなったら。
そう思うと居ても立ってもいられなくなった。
横で寝ているナオを起こさないようにこっそりと宿を出た。
道具屋の朝は早い。もう開いているだろう。
道具屋に着いた俺の目に飛び込んできたのは1枚の張り紙。
「限定のドリンク、再入荷!箱で買うと1割引!」
気になったので店主に尋ねると、
どうやらこの限定品は、元気が出る飲み物らしい。
見たところ、安くも高くも無い微妙な値段設定。
「おいしいですよ。今買わないとあっという間に無くなっちゃいますよ。
こないだも大人気でー。お兄さんも1箱どうですか?」
財布と相談してみたところ、別にいいかという結論に達した。
何より、聖水が売り切れという由々しき事態。
代用になるかもしれないと期待を込めて1箱(50本入り)購入した。
見た目より重いその箱を担いで宿に戻る。
カチャカチャ音がするところを見ると、
きっとガラス瓶か何かに入っているのだろう。
1本1本が包装されていて、どのような物だかはまだ分からない。
宿に着き、テーブルに箱を置く。
まだナオは寝ているようなので、電気はつけずに
暗い部屋で手探りで瓶を空け、1本飲んでみる。
そして俺は心を決めた。
1時間後…
「で、こんなに買ってしまった、と」
ユキの目が冷たい。
テーブルの上には、さっき買ってきた大量の物体。

「限定品なのに箱で売るわけないじゃない。
しかも味も効果も分からないで買って来たの?
まったくもう。何やってるのよ。はぁ」
何だか口調がきついような気がする。
無駄遣いだと思われたのだろうか。
だが俺の心は決まっている。
今さら後へは引けないのだ。
「まあ聞け。効果もわからないでと言うが、箱見てみろ。
この配合されている薬草の量!すごいぞー。
絶対美容にも効果が」
「1本頂くわ」
即答かよ。すごいな美容。
ユキはいそいそと箱を開け、きらきら光る青い瓶に見入る。
「わぁ、きれーい。この瓶いいわね」
「味もいいぞ。さあ飲め」
「いただきまーす」
促されるがままに瓶の口を空け、ぐびっと飲むユキ。
ひと口飲んだユキの動きが止まった。
ゆっくりと瓶を口から離し、こっちを見る。
服に着くと取れなそうな青い液体がユキの唇の端から落ちる。
…何だこの怖い顔は。もしかして怒ってる?
「カイ」
「ん?おかわりならまだまだあるぞ」
「いらないわ」
「あ、そう」
やっぱり怒ってる…。
「カイ、あなたこれ飲まなかったの?」
「いや、飲んだぞ」
「じゃあ何で」
「全ての人間に薦めたくなる味じゃなかったか?」
ユキはしばし黙り俯いて考え込む。
「…」
「…」
次に顔を上げたユキの目の輝き。
俺にはユキの考えていることが何となく分かった。
「ナオにも薦めてくるわ!」
そう言うと、テーブルの上から5本くらい抱えて
ナオがまだ寝ている部屋に飛んでいった。
あの味はなんとも独創的な味だった。
鼻を刺すような刺激臭。ただ臭いほどの刺激的な味ではない。
俺はただ、このドリンクに聖水と同じ効果があることを願い
テーブルの上に箱いっぱい置いてある飲み物を眺めた。