外はまだ暗い。
朝になるまでにはまだもう少し時間がある。
俺は部屋で寝ているナオと隣の部屋のユキを起こさないように
こっそりと外に出た。
今からすることをあいつらに見られるわけには行かない。
右手を思い切り開き、体の前に突き出す。
精神を集中させて目の前の石を睨む。
そうだ、ナオが前使ってた、敵グループを攻撃する呪文。
俺にも…できるはずだ。
頭の中で何度も繰り返した呪文を思い切り叫ぶ。
ベギラナ!※正確にはベギラマです。
イメージでは石は砕け、地面に衝撃が走る、はずだった。
が、何の変化もない。
…おかしいな。
違う呪文にチャレンジしてみようと思い立つ。
右前方に小さな毒の沼地があった。
そうだ、ナオが前使ってた、毒の沼地を渡る呪文。
うまくいけば俺の足元は白い煙に覆われ
沼の毒も俺に害を及ぼさなくなるはずだ。
俺にも…できるはずだ。
頭の中で何度も繰り返した呪文を思い切り叫ぶ。
トラマガ!※正確にはトラマナです。
足元には何の変化もない。
まあ最初はそんなものかもしれない。
でも効果はきちんと出ているに違いない。
俺は沼に足を一歩踏み入れた。
じゅっ
じわっとしみる毒の沼。
…おかしいな。
とりあえず沼から出た。
俺…魔法の才能ないのかな。
いやいや、今まで練習をさぼっていたからだ。
ちゃんとやればできるに違いない。
違う呪文にチャレンジしてみようと思い立つ。
そうだ、ナオが前使ってた、街に戻る呪文。
あれを使えたらいろいろと便利かもしれない。
俺にも…できるはずだ。
頭の中で何度も繰り返した呪文を思い切り叫ぶ。
ルーナ!※正確にはルーラです。
イメージでは俺の体は勢いよく宙に浮き
町の前で着地する、はずだった。
が、何の変化もない。
「はぁ」
知らずに洩れるため息。
「やっぱり…無理なのかもな」
精神を集中して、魔力を使って呪文を唱える、ということが
イマイチよく分からない。
がんばってもどうやら俺の手からは稲妻は出ないらしい。
…まいったなぁ。
「何だか腹減ったな。そろそろ帰るか。あいつらもそろそろ起きる頃だ」
…ちょうどその頃。
「ユキー、何見てるのー?」
「しぃっ、見つかっちゃうわ。今いいところなのよ」
「ん?どうしたのー?」
物陰でカイの魔法こっそり練習を見つめるユキと
そのユキを見つめるナオがいることに
カイはまだ気付いていなかった。