ルーラで町に帰ったぼくたちは
宿屋で今後についてのちょっとした作戦会議を開いた。
「で、メルキドの南…だったか?そこに行けと」
「ええ。竜王のひ孫はそんなことを言ってたわね」
「メルキドって、確かこの大陸にあったっていう城塞都市だよね」
メルキドはラダトームの町から南東の方角にある。
…あった、と言うべきかな。
竜王の城で手に入れた世界地図によると、険しい岩山に阻まれ
ぐるっと迂回しないと行けないみたい。
「ここじゃない?小さな島があるわ」
ユキが地図を指差した。
アレフガルド大陸から離れてちょっと南のその地点には
ユキの言うとおり小さな島があった。
「ん、多分そうだな。船で行けばそんなにかかる距離でもないが…」
ここからだと、船に乗って、大陸に沿って東に行き
そのまま陸伝いに南に行くとその島に着くようだ。
「じゃあ早速明日の朝にでも行ってみようか。
竜王のひ孫が行けって言うからには何かあるのかもしれない」
「それなんだが…ちょっと提案があるんだ」
「なあに?」
「島に行くこと自体は別に構わないんだが、その前に
ちょっとこの大陸を歩いてみないか」
カイが妙な事を言い出した。
「竜王の城の敵は今までになく強かった。
これから先、もっと強い敵が現れる」
「うん、それはそうだと思う」
「竜王の城で俺たちは偶然ロトの剣を見つけた。
もしかしたらこの大陸にはまだ、勇者ロトの防具があるかもしれない」
「それって三賢者の言い伝えのこと?」
「ん、まあそれもある」
三賢者とは、かつて勇者ロトと旅をした仲間のことで
彼らは後にロトの装備していた防具をロトの子孫に託し、
ロトの子孫はそれらを装備して竜王を倒したと伝えられている。
その三賢者のほこらがこの大陸にまだあるかもしれない。
「わたしは別に構わないわ。
地図を見たらこの大陸、あまり広いわけでもなさそうだし
歩くことによって何か新しい情報が得られるかもしれない」
「そうか。ナオはどうだ?」
「ん、ぼくもそれでいいと思うよ」
「わかった。それじゃ、明日ここを発とう。…他に何かあるか?」
ぼくはこの間から気になっていたことを口にした。
「んーと。王様のことなんだけど」
「お前が鍵穴から見た人物のことか?」
「うん。それでさ、そのことだけじゃないんだけど、
金のカギってどこにあるのかな」
王様らしき人物がいた部屋には金のカギがかかっていた。
他にも今まで立ち寄った町や城にも、金のカギの扉があった。
「…そういえばローレシアの宝物庫にも金のカギがかかっていたな」
「ムーンペタの町にも金のカギがかかった小屋があったわ」
「どんなカギも開けられる呪文があることはあるんだけど
熟練の魔法使いじゃないと使えない難しい呪文なの。
ごめんね、わたしもまだ使えないのよ」
そう言うとユキはちょっとしゅんとした。
「気にしなくていいと思うよ。
カギが開けられなくたってユキはすごい魔法使いだと思うし」
「そう?ありがとう」
「銀のカギは情報があったから手に入れることができたじゃない。
きっとこの世界には、金のカギについて知ってる人もいると思うんだ。
だからさ、これから金のカギについても聞いてみたらどうかなあ」
「ん、そうだな」
「あと何かあるか?」
「あ、はーい」
ユキが小さく手をあげた。…かわいい。
「なんだ?」
「ナオが持ってるやまびこの笛のことなんだけど」
「ん?お前まだあの笛吹くの諦めてなかったのか?」
あのやるせない音色を思い出してちょっと気分が沈んだ。
どうしてこのかわいいユキからあんな音が出るんだろう。
「そうじゃないわ」
あ、ちょっとふくれてる。…やっぱりかわいいなあ。
「ナオ、ちょっと今吹いてみて」
「?」
言われるがままにかばんから笛を出し吹いてみる。
ぱぷぺぽ~~
あの時と同じ、ちょっと間の抜けた音色があたりに響く。
「吹いたよ」
「…」
何か難しい顔をしてユキが黙っている。
「ユキ?」
「ねえ、これって、やまびこの笛って名前よね。
でも、この間も今も、やまびこは返ってこなかったわ」
「そう言えばそうだな」
「でも、家宝と言うからには何か特別な効果があるはずよ。
そしてそれはやまびこが関係すると思うの」
「…そうだな。じゃあ、ナオ」
カイがこっちに向き直って何だかまじめな顔で言った。
「お前をぱぷぺぽ係に任命する。
ちょっとでも気になったところがあったらとりあえずその笛を吹け。
重大な任務だぞ?」
「は?なにそのネーミング」
「分かりやすくていいだろう。頼むぞぱぷぺぽ係」
「別にいいけど…」
ぱぷぺぽ係…。
「がんばってね、ぱぷぺぽ係さん」
にっこり笑ってユキが言う。
何だかぱぷぺぽ係も悪くないような気がしてきた。
「うん、ぼくがんばる!」
「…単純だな」
「ん、なあに?」
「いや、なんでもない」
「これくらいか?」
「そうね」
「んじゃもう寝るか。明日は早いぞ」
「はーい」
「それじゃ、おやすみなさい。また明日ね」
そう言ってユキは隣の部屋に行った。