ラダトームの城の対岸にある城には竜王が住んでいたという。
今はどうなのだろう。
毒の沼の真ん中に建つ城は、何だか禍々しい雰囲気を放ち
俺たちを拒んでいるようにも見えた。
「向こうまでどうやって行こうか」
ナオに聞いてみた。
「んーと、ロトの勇者は虹の橋をかけて城まで渡ったって言うけど。
今もその橋残ってないかな」
確かに言い伝えでは、ロトの勇者はリムルダールの西岸から
虹の橋をかけて竜王の城に渡った、とある。
でも…。
「そこまで回り込むのもけっこうな距離だぞ。
ここからリムルダールに行くためには、この大陸を
ぐるっと歩かなければならないだろうし。
それより、船でぐるっと迂回していくことは出来ないか?」
「そうね、じゃあ、船で回ってみて何とか上陸できそうならそうするのはどう?」
「ん、そうだな、そうするか」
「虹の橋は城の帰りに見に行ってみましょうよ」
「あ、そうだね!」
ナオの顔がぱあっと明るくなる。…単純だな。
西岸に泊めた船に乗り込み、大陸に沿って北から東に回りこむと
間もなく竜王の城の近くにたどり着いた。
今の時代は船があるからすぐだったが
ロトの勇者の時代は船も無く、徒歩でここまで来るのは大変だっただろうな。
そんな事を思いながら、城に続く毒の沼地に足を伸ばした。
「あ、ちょっと待って」
ん?ナオに腕を捕まれて足が止まる。
「毒の沼地、そのまま歩くと危ないよ。
トラマナ!」
ナオの手から白い光が俺たちに向かって放たれ、
俺たちの足元を白い煙が包んだ。
「何だこれ?」
「えーとね、この呪文唱えると、バリアーや毒の沼のダメージ
受けなくなるんだよ」
あの時ちょっとしんどかったからさ、と、照れて笑っている。
「すごいわ。トラマナなんてわたし使えない」
「そんなことないよー。じゃ、行こうか」
「ああ」
影で努力してるとは、なかなかやるな。
ちょっと見直した。
「何だか…ずいぶん薄暗いのね」
ぼそっとユキが言った。
「ん?ああそうか、ユキは地下にもぐるのは初めてだったか」
「ええ」
外からの光が入る塔とは違って、地下にもぐる洞窟や城は
どうしても薄暗い。それがまた格好の魔物の住処になるのだろう。
「そのうち目が慣れる。それまでゆっくり進むぞ」
「ありがとう」
ラダトームで聞いていたとおり、城の地下は魔物の巣窟だった。
無数の蛇が顔のまわりにうごめく生首、
全身が包帯に覆われたミイラ男、
鋭い爪を持つ獣、
奴らは外の敵よりもはるかに手ごわいものだった。
どうやら迷ってしまったらしい。
似たような壁の色に惑わされ、気がつくと同じような場所をぐるぐると回っていた。
脱出の為の魔力はまだ残してあるらしいが
何も得ないままここを出るのは嫌だったので
ぎりぎりまで探すことにした。
「ねえ、あっちに階段があるよ」
ナオが遠くの壁の方を指差した。
「あっちは…まだ行ってないな」
今まで近くの階段ばかり使っていたので気がつかなかった。
俺たちはナオの見つけた階段を下りた。
階段を下りた先は分かれ道も無く
ひたすら階段を登ったり下りたりの繰り返しだった。
「ずいぶん深くまで来たわね…」
「ああ」
この洞窟はどこまで続くのだろう。
俺たちは3人だから会話しながら進むことが出来るが
ロトの勇者はひとりでこの奥まで進んだのか…。
そんな事を考えながら先に進むと、小さい部屋に出た。
部屋には青いタイルが敷き詰めてあり、隅に宝箱がひとつ。
宝箱を開けると中には一振りの剣があった。これは…
「うわあ、それ、もしかして…」
後ろからナオが覗き込む。
この紋章は…ロトの紋章。
「ロトの剣だ…」

吸い寄せられるように手にとると、何だか吸い付くような感覚。
はるか昔に…この剣を持って戦ったことがあるような…
そんな変な気持ちになった。
「ねえねえカイ、ぼくも持ってみたい!…だめかなあ?」
「ん、ああ、ほれ」
ナオに剣を渡すと、うわあとかへーとか言いながら
剣を表にしたり裏にしたりしながらはしゃいでいる。
が、すぐに剣をこちらに差し出して言った。
「はい、ありがと。ぼくにはちょっと重いかもしれないから
これはカイが持ってて」
そう言って剣を返された。
今日からこれが…俺の剣か。
さて、ここで行き止まりか。
再び、来た道を戻ることにした。
長いこと地下にいたせいか、ずいぶん目も慣れた。
まだ行っていない道を見つけ、先に進むといきなり広いフロアに出た。
地下深くのはずなのに、外のような光が差し込む。
ここが…最下層なのだろうか?
俺たちは広間をぐるっと迂回して、玉座がある場所まで歩いた。
何者かが玉座に座っているのが見える。
…あれは?