さっきの父上の話…本当なのかな。
ムーンブルクのお城が襲われたって。
ハーゴンとか言う奴が世界を破滅させる気だって。
信じられない。だってお城はこんなに平和なのに。
大体さ、世界を破滅させちゃったらハーゴンどこに住むのさ。
悪者の考えることって分かんないよね。
ムーンブルク…きっと無事だよね。
あそこの王様だってロトの子孫。
すごい強力な魔法を使えるって聞いた。
きっと魔物なんかあっという間にやっつけちゃうよ。
父上は珍しくおっかない顔をしてこう言った。
「ローレシアの王子カイがこちらに向かっている。まもなく着くだろう。
お前はカイと共に旅に出てハーゴンを倒し、世界を救うのだ。
お前はロトの子孫なのだから。」
は?もう向かってる?ロトの子孫だから悪者を倒せだって?
じゃあ父上とローレシアの王様とふたりでハーゴン倒しに行けばいいのに。
…もう歳だから無理なのかなぁ…。
ぼくは本当は行きたくなかったんだ。…さっきまでは。
父上はこう続けた。
「ムーンブルクのユキ王女…どうしてるだろうなぁ。
確かお前と同じくらいの歳だったよなぁ。
あれは将来きっと美人になるぞ~。…生きてれば、な。」
え?王女?美人?まじすか父上!
それまで王女と言ったらうちのうるさい妹のナミしか知らなかったぼく。
あいつすぐ泣くしすぐ父上に告げ口するし。嫌になっちゃうよ。
そうかぁ、美人かぁ。
追い討ちをかけるように父上。
「お前がかっこいいところ見せたら王女もお前にイチコロだぞ。」
そうだね!そうだよね!
ぼくロトの子孫だもん。魔法だって剣だって使えるもん。
きっとうまく行くよね。
そうと決めたらぐずぐずしてられない。
城の人の噂によると、ローレシアの王子のカイはすごいカッコイイらしい。
剣の達人だとか寡黙でクールだとか大人だとか、そんなことばっかり。
そう言えば昔からすましてる奴だった気がする。
やばい。そんな奴と一緒に行ったらぼく引き立て役じゃん。
カイが来る前に城を出発しなきゃ。
ぼくひとりでユキを助けてふたりで旅をしてふたりで力を合わせて
ハーゴンを倒してユキはぼくにぞっこんなんだ。カイなんか知るか。
ぼくはまだ暗いうちに夜逃げのように城を出発した。