そろそろ着くわよ、とユキが呼びに来て目が覚めた。
いつのまにか眠っていたらしい。
海岸に船を泊めて上陸した。
足を一歩踏み出すと、ふわっとした風が横を通り過ぎた。
今のは…?
「あ」
ユキが小さな声を上げた。
「ん?どうしたの?」
「ん、何でもないんだけど…何だか懐かしい気がして」
「懐かしい?」
「ええ。地面とか、空気とか、何ってうまく言えないんだけど
そんな気がしたの」
「そっか」
確かに、今の風は何だか懐かしい匂いがしたような気もする。
ここには来たことないはずだけど…。
船を泊めた所から東に少し歩いた所で、城が見えてきた。
きっとあれがラダトームの城だ。
って、…あれ?
城がふたつある?
ぼくたちの向かった先にある城の対岸に
毒の沼に囲まれた、ちょっと嫌な感じの城があった。
なんか漂う雰囲気が禍々しい…気がする。
「とりあえず疲れたから宿屋に行かない?
王様に会うのは明日になってからでもいいと思うし」
ユキの提案に、そうだねと答え、手前にある
(多分)ラダトーム城に入った。
「宿屋…は、あ、あった」
町の外れにある宿屋に入った。
「カイ、ちょっと休んでて。ぼく、街歩いてくるよ」
「あ、わたしも行くわ」
「ん、じゃ、少し横になってる」
「どこに行くの?」
宿屋を出たところでユキに聞かれた。
「んー、酔い止めの薬とかないのかなと思って」
「あーそうね。船に乗るたびにあれだと気の毒よね」
滅多に見られないげっそりとしたカイを思い浮かべる。
「でも、薬屋さんなんて多分ないわよ」
「うん、それについてはぼく、考えたことがあるんだ」
「なあに?」
「えーとね、船乗りの人でも船に酔いやすい人もいると思うんだ。
だから、船乗りさんに聞けば何か分かるかなって」
「そうね、何か分かるかもしれないわ。
船乗りさんなら、街に入ってすぐの所で見たわ」
「ほんと?じゃ、早速行ってみようよ。どっち?」
「えーと、こっち」
ユキについて歩く。
ユキの案内で船乗りさんの所に着いた。
がしっとした体格で、もじゃもじゃとひげを生やした
ワイルドなおじさんがいた。
「あのー」
「ん?何だ?見ない顔だな」
「ぼくたち、船に乗ってきたんですけど」
「おーそうか」
「船乗りさんって、船に酔ったりしないんですか?」
「ん?そうだなー。そんな事言ってもいられないしな。
酔いそうな奴は前もって聖水飲んでるらしいがな」
「聖水って、道具屋さんで売ってるあれですか?」
「ああ、あれを飲むとすっきりさっぱりなんだとか。
俺は酔わないから知らないが」
「じゃ、早速試してみます。ありがとうございます」
聖水かぁ、それは思いつかなかった。
魔物よけの液体だと思ってたんだけど、そんな使い道もあったとは。
「ところできれいなお姉ちゃん」
いきなりユキの方を向いて話し掛けてきた。
「何でしょう?」
「海に沈んだ財宝の話を知っているかい?」
財宝…ああ、ルプガナの出口にいた商人さんの言ってた話か。
「ええ、小耳には挟んだのですが、場所が分からないのです」
なんだかいつもよりお嬢様になったユキが答えた。
「そうかそうか、それじゃあいい事を教えてやろう。
財宝を積んだ船は、北の沖の浅瀬に乗り上げて沈んだそうだ」
「北…ですか?」
「ああ。すごい量の財宝だったらしいな。
海の上からでも光ってるから分かるらしいぞ」
「そうですか、それはご親切にありがとうございます」
にっこりと微笑むユキ。
「それではわたしたちは、仲間が待っているので失礼します」
「おぅ、気をつけてな」
「はい、ありがとうございました」
船乗りさんに手を振ってその場を後にした。
「聖水持ってる?」
「あ、うん、3つくらいあったような気がするけど。
カイも持ってるんじゃないかな」
「そう、じゃ、買わなくてもいいわね。
帰りましょうか」
「うん」
そしてぼくたちは宿に帰り、その日はちょっと早めに休んだ。