ルプガナで借りた船は小さいながらも
なかなかハイテクな代物で
船の操縦なんてやったことなかったぼくたちにも
何とか操作できそうな感じだった。
と、言うか…オート操縦装置がついてたんだけど。
船って初めて乗ったんだけど、風が気持ちいいな。
サマルトリアは森に囲まれてたから
海なんて初めてだ。
これから船でいろんな所行けるなんて、わくわくしちゃう。
ふと横を見ると、カイがぐたっとした様子で座ってた。
何だか顔が青い。
「…どうしたの?」
「…すまない、なんだか俺、船苦手かもしれない」
「気持ち悪い?」
「…あぁ…多分そのうち慣れる…と思う」
「そっか。ま、無理しないで。
ぼくちょっとユキとお話してくるね」
「ん」
そっか…カイ、船だめなのか。
まぁ人間なんだし、ひとつやふたつ苦手なものもあるよね。
何でも出来る完璧な人よりも親近感がわいてくるや。
…船酔いは気の毒だけど。
完璧な人と言えば…。
ぼくはちょっと思い当たることがあったので
ぼーっと海を見ているユキの所に向かった。
「ユキ、今いい?」
「あ、ええ。…どうしたの?」
「んと、別に用事があるとかじゃなくて
ずっと戦い通しだったから、ゆっくりお話なんて
したことなかったなーと思って、さ」
「そう言えばそうね。
ムーンペタからここまで、あっという間だったわ」
「でね、ぼく、ユキに聞きたいことがあったんだけど。…怒らない?」
「聞かないと怒るかどうか決められないんだけど」
あ、なんかちょっとむっとしてる。
「それもそうだね、ごめん。あのね。
ユキ、何だかいつもピリピリしてるように見えてさ」
「…それで?」
「うまく言えないんだけど…きつくないのかなって思って」
「きつい?」
「うん。ずっと気合入れてると、疲れちゃうよ。
糸だって、ずっと引っ張ってると切れちゃうじゃない。
ぼく、ユキが無理してるみたいで心配で」
「わたし…無理なんてしてないわ」
「…ほんと?」
「ええ、本当よ」
即答するあたりが無理してるように見えるんだけど…。
でもユキは、大丈夫と言うようににっこり笑って
力こぶを作るまねをした。
ちょっと足が疲れたからユキの隣に腰掛けた。
立って海を見ていたユキも隣に膝を抱えて座った。
「あのね。ラーのかがみを取りに行った時にね、ぼく
カイに怒られちゃったことがあったんだ。
怒られたってほどきつくはなくて、教えられた、って言うのかな。
お前は何のために旅をしてるんだって。
サマルトリアに帰ってもいいんだぞって言われて
…ちょっとショックだったんだ」
「そんな事言われたの…」
「うん。でもね、それは当然のことだったって今は何となく思う。
正直言うとさ、ぼくはかなり甘く見てた。
旅もすぐ終わると思ってたし、
ユキがあんなに大変な目に遭ってるのも知らなかった。
ちょっとしたピクニック気分で過ごしてたのが
きっとカイにも伝わったんだ」
「じゃあ、カイは何のために旅をしてるって言ってたの?
そんな立派なこと言うからには、彼の目的は
もっときちんとしたものだったんでしょ?」
さすがに厳しい所をついてくる。
「カイは、もう目の前で人が死ぬのを見たくないって
そう言ってた」
「…そう…」
ユキはそう言うと下を向いて、考え込んだ。
「…今は?」
「え?」
顔をあげてまっすぐぼくを見てきた。
その瞳はいつものように強い。
「ナオは今、何のために旅をしてるって答える?」
「ぼくは…」
うわべだけの言葉は通じない、そう思った。
伝わって欲しい、そう思って言葉を選んだ。
「心から笑ってほしくて」
「え?」
「ぼくは、ハーゴンを倒して、大切な人が
何の心配もせずに心から笑うことができる世界にしたい。
にこにこしていても、今ユキが笑ってないことくらい
ぼくにだって分かる。
ユキ…ぼくたちは仲間だよ。
ずっと無理してなくても、愚痴こぼしたり泣いたりしてもいいんだよ。
いつも偉そうなカイも今は船酔いでダウンしてるし
弱い所はあったって当然なんだ。
…ぼくは弱い所ばっかりで恥ずかしいけどさ。
ぼくたちの心が折れちゃったら、本当に終わりなんだから
溜め込んでるのってよくないと思う」
「…ナオ…」
「ムーンブルクのお城に行ったんだ。カイに聞いたよね?
お城の人たちはみんな、ユキのこと心配してた」
お城の話はタブーかもしれなかったけど、思い切って言ってみた。
「ぼくも心配だし、カイも心配してるよ。…多分だけど。
だから、さ、ちょっと力を抜いてみたらどうかな、って。
おせっかいだったらごめんね」
「ううん、いいのよ」
声の様子だけだと怒ってるかどうか判断できないから
そおっと顔を見た。…別に怒ってはいないようだけど
何か考えてるみたいだ。
「あの、ね」
ユキが話し始めた。何か決心しているように見える。
「別に無理してるつもりはなかったんだけど…心配かけてごめんね。
小さい時から、やせ我慢する癖がついてて、
誰かに甘えたり本心を見せたりすることに慣れていないの。
それは信用してないとかそういうことではなくて。
さらけ出すことで、何か自分が弱くなりそうな気がして。
どこか壁を作ってしまっているのね。悪いのは分かっているんだけど」
「…そっか」
「力を抜く、か。難しそうだけど、やってみるわ。
いつまでもこのままってわけにも行かないものね」
「…うん!」
すくっとユキが立ち上がった。
「わたし、ちょっとカイの様子見てくる。ナオは?」
「んー、ぼくちょっとここでぼーっとしてるね」
「そう、じゃ、またね」
ひらひらと手を振ってユキはカイの方に歩いていった。
…言いたかったこと、伝わったかなぁ?
海からの風が本当に気持ちいい。
難しいこといっぱい話してたら、何だか疲れて眠くなっちゃった。
少し休もうっと。ふわぁぁぁ。