ユキが道具屋に出発したのを見計らってナオに切り出した。
「おい」
「ん?なあに?」
「これから俺たちは西に行くことにしたんだが」
「あ、うんそうだね。それがどうしたの?」
鈍い奴だ。
「西にはムーンブルクの城があるだろ」
「あ、そうだった!」
「城には寄らないことにしようかと思っている」
「え?何で?」
「ユキにあんな廃墟になった城を見せたいか?」
「…見せたくないけど…王様がユキのこと待ってるかもしれないよ。
ユキだって王様に会いたいかもしれないじゃないか。
この間の様子だと、王様がもう死んじゃったって思ってるみたいだったけど
あんな姿になっても生きていることが分かればきっと」
「ユキは知ってるぞ」
「え?何で?」
「…俺が話した。王様が人魂になっていると」
「何で話すんだよ。そんなのかわいそうじゃないか」
「知らない方がかわいそうだと思ったからだ。
どんな姿でも、生きているんだ。いつか会いに行く事だってできる」
「だからって…」
珍しくナオが俺のことを睨んでいる。
当然と言えば当然か。
「ユキはまだ心の整理がついてないから城には行けないと言っていた。
だから今回はできるだけ城が目に入らないように遠回りして
西に行こうかと思うんだが」
「…わかった」
いまいち納得はしてないように見えるが…。
「ユキには黙ってろよ」
「うん、分かってる。
ぼくたちはこれから西に行く。でも
お城の近くは通らない。これでいいんだよね」
「上出来だ」
「そろそろ戻ってくる頃だな」
「うん、そうだね」
「あ、ユキ、おかえりー」
「ただいま。何の話してたの?」
「あ、え、いや、なんでもないよー」
ごまかすのが下手な奴め。助け舟でも出すか。
「ナオ、俺たちがユキの悪口言ってたなんてばれたら
宿屋の裏の路地に連れ込まれたあげく
魔法で眠らされてぼこぼこにされるぞ」
「…なんですって?」
ユキの声のトーンが一段低くなって、すごい目でぎろっと睨まれた。
美人が凄むと怖いな。さっさと切り上げよう。
「いや、なんでもない。ナイフ買ったか?じゃ、行くぞ」
「すごい怪しいんだけど…?」
「気のせいじゃないか?それより」
財布を返してもらってこの話題から気をそらそう。
「あ、ごめんなさい」
気づいたらしく財布を慌てて返してきた。
「じゃ、行きましょうか」
ほっ、どうやら諦めたらしい。
「うん、そうだね」
こうして俺たちは西へと旅立った。
ユキがムーンブルクの兵士に手を振っていた。