風の塔に向かって町を出たのはいいんだけど
塔って一体どこにあるんだろ?
「ねぇカイ、風の塔の場所、わかるの?」
「ん?あぁ。
ラーのかがみを取りに行った時に遠くに塔らしき物が見えた。
多分あれじゃないかと思うんだが
あの沼地からは橋もかかっていなくて行けそうになくてな」
…ぼくがかがみ探しに夢中の時にもちゃんと見てたんだ…。
「じゃ、どうやって塔まで行けばいいのかしら」
「多分…町の北東からぐるっとまわりこめば
たどり着きそうな気がする」
「あーそれで北の方に歩いてたんだ」
「塔に着くまでにはユキも戦闘に慣れるだろう」
「…そうね。さすがにこのままじゃ足手まといだわ」
足手まといだなんて、そんなことないのに。
今の時点でぼくにできない呪文も使えるなんて
やっぱり才能なのかなぁ。
王様もすごい強力な呪文使えたって聞いたし。
ぼくもがんばらなきゃ。
しばらく歩いたらようやく塔が見えてきた。
塔にたどり着くまでに何度か敵に遭遇した。
ほとんどカイの剣で一撃だったんだけど
なんか熊くらいでっかい猿のモンスターが強敵だったな。
攻撃を食らうとあっという間に体力が半分くらい削られるし。
でも、カイの言ったとおり、戦闘の経験を重ねることによって
だんだんユキも慣れてきたみたいで
新しい呪文も使えるようになったって言ってたっけ。
新しい呪文…どんなのだろ?いいなぁ。
「さて、探すぞ」
塔の内部はひんやりとした空気に包まれていた。
とりあえず目の前の上り階段を上ってみることにした。
2Fも似たような感じで、すぐ近くに3Fへの階段があった。
「この調子だとけっこう簡単に見つかるかもね」
楽なのに越したことはない。あっさり終わりそうな予感に
ちょっとうれしくなっていたんだけど。
「そうかしら?こんなに簡単に見つかるなら
とっくに盗まれてると思うわ。
町の人が情報を知ってたくらいだもの。
そう簡単には行かないんじゃないかしら」
ユキの言ったとおりだった。
目の前の階段をひたすら上り、敵を倒しながら最上階まで来てみたけど
上に通じる階段は全部行き止まりで
宝も何もなかった。
「うーん、ハズレ?」
「…とりあえず一度下に戻って、もう一度探そう」
「そうね」
下りる途中でおばけねずみ4体と戦闘になった。
ねずみなのにとても大きくて
おまけにずるがしこい。
奴らは集中攻撃の戦法を取ってきた。
狙われたのは…か弱そうに見えるユキだった。
「ユキ、あぶない!」
1匹目のねずみに攻撃されて足を取られたユキに
他のねずみが襲い掛かろうとしているのが見えたから
とっさにユキの前に出た。
ぼくの肩のあたりにねずみが飛び掛かり
がぶっと噛まれた。
図体がでかいだけあって、太くて長い歯がぼくの肩に食い込む。
ユキは無事なのか?
肩の痛みをがまんして後ろを振り返ると
ユキが呪文の詠唱をしているのが見えた。
何とかねずみの注意をユキからそらさないと。
呪文に集中して、無防備な時に襲われたら大変だ。
肩に噛みついたままになっているねずみを引き剥がしに掛かった。
ばっ
ユキがねずみ3体に向かって手を振りかざして叫んだ。
「
ラリホー!」
すると、さっきまで動いていたねずみの動きが止まった。
どうやら今の呪文でねずみは眠ってしまったらしい。
1匹ずつカイが倒している間に、肩の傷に
ホイミをかけて治療した。
「ナオ、平気?」
ユキが駆け寄ってきた。
「あ、うん大丈夫。
ホイミかけたし」
「そう、よかった」
「
ラリホーすごいねー」
「たいしたことないわ」
そう言いながらもちょっと得意そうなのが何だかかわいい。
傷を治す呪文だけじゃなくて、
戦闘でも使える呪文が覚えられたのがうれしいのかもしれない。
そんな感じで1Fに戻ってきた。
この階段がハズレだったってことは、当たりの階段があるはず。
「…こっちはまだ行ってないな」
カイが柱の影にある階段を見つけたのでついて行った。
階段を上りきったぼくたちに、前方から強い風が吹いてきた。
「塔の中なのに何で…?わあっ!」
風の吹いた方を見ると、あるはずの外壁がなくて
足を踏み外したらすぐにでも落ちそうだ。
階段の横に白い鎧を来た兵士がいたので話しかけてみた。

「外壁を歩く時は、落ちないように気をつけて歩かれよ」
「あ、どうも。親切にありがとう」
彼…ここに来る人に忠告する為にずっと立ってるのかなぁ?
まぁ、道幅も広いしまず落ちないよね、と思って
ずんずん進んで行ったんだけど、カイがついてこない。
ユキも普通に歩いている、というか…外を見て
うわーとかすごーいとか喜んでるように見える。
後ろを振り返ってカイに尋ねてみた。
「…カイ?どうしたの?」
「…もっと…ゆっくり歩かないか?」
「え、何で?」
「何ででも、だ。注意しろってさっき言われただろ」
心なしか声がいつもより震えているような…もしかして。
「カイ…怖いの?」
「ば、馬鹿野郎!怖いはずあるかっ」
「あーやっぱり怖いんだー」
「怖くない!」
カイがこっちに向かって手を伸ばしたので
避けるように塔の外側に向かうと…やっぱりついてこない。
もうちょっとからかいたい気もするけど…。
「そのくらいにしておいたら?
はやく行かないとマントが腐るわよ」
後ろから何だか弾んだ声でユキが言った。
高いところが好きでハイテンションになってるのかも。
でも…マントは腐らないと思う。
仕方なくゆっくり歩いていくと上り階段があった。
上った先も今のような外壁がない道だった。
さっきのハズレの道は、塔の真ん中あたりにあって
今いるところとは内壁で隔離されていて行けないようになってるみたい。
5Fまで上ったところでようやく下りの階段があった。
上って上って上って下りるなんて何だかずいぶん
無駄なことをしてるような気もするんだけど…
これくらい入り組んでないと盗まれちゃうのかも。
ひたすら下りて下りて2Fまで下りた。
行きついた先は、床にきれいな装飾のしてある小さな部屋だった。
部屋の真ん中に黄色い布が落ちている。これが…?

「これを着けると、高いところから落ちても
ムササビみたいに飛べるらしいんだが…」
「1枚しかないみたいね。誰が着けるのがいいかしら?」
「…とりあえず俺が持っておこう」
「あれ?装備しないの?」
「こんなダサいマント装備できるか」
「確かにデザインがちょっとあれよね。本当に効果あるのかしら」
「効果にデザインは関係ないよー。大丈夫だって。…多分」
さて。
「じゃ、帰ろっか」
「また今のところを上って上って下りるのか…面倒だな」
…カイはあの道を通りたくないだけのような気もするけど。
「ちょっと疲れちゃったわね」
「そうだね。じゃ、ふたりとも、ぼくの手につかまってくれる?」
「?」
「しっかりつかまった?じゃ、行くよ。
リレミト!」
次の瞬間、ぼくたちは塔の外に立っていた。
「すごいじゃないナオ。わたしまだ
リレミト使えないの」
「えへ。さっき覚えたんだ」
「…便利だなそれ」
何だかちょっとうれしい。
「町まで飛ぶからもう一回きちんとつかまっててね。
ルーラ!」
ぼくはムーンペタの町を心に思い浮かべて呪文を唱えた。
ふっと体が軽くなって、不思議な浮遊感が体を包んだ。
気がつくとぼくたちはムーンペタの町に着いていた。
今日は疲れたし、宿に行って休むことになった。