「しかし惜しいことをしたわ」
「ん?どうしたの?」
「立場上帰った方がいいわとは言ったけど、
ナミちゃんも連れていくことができれば、
かなりの戦力になったんじゃない?」
「あぁ、言えてるな」
「あーごめんそれ無理。父上がナミのこと溺愛しててさ
怪我させたりしたらぼくが殴られちゃうよ」
「そうか…それは残念だな」
どこの家でも親父は娘に甘いんだな。
ユキの親父もユキには甘かったんだろうな。
「ま、ぼくたちはぼくたちにできる範囲でがんばろうよ。
勇者ロトの子孫だって、10種類の呪文を駆使して
竜王を倒したんだから」
「…呪文か…」
いいよなぁ。俺ももっとまじめに勉強しとくべきだったかな。
ため息をついている俺を見てユキが言った。
「大丈夫よカイ。ナオもわたしもいるし、それに
伝説の武器には呪文の力が宿るものもあるらしいわ」
「…ほぉ、それは初耳だ」
「物語とかだとそういう伝説の武器って
悪者が隠し持ってたりするんだよね。
洞窟の奥深くにこっそり置いてたりさ」
「じゃ、そのうち手に入れることもできるかもしれないわね」
「そうだねー」
「さて」
「ん?なあに?」
「さっき道具屋でもらったんだが、使うか?福引券」
「あ、やりたい。ぼく、祈りの指輪ほしくてさー」
「じゃ、わたしのために世界一周旅行当ててきてね」
「…そんな賞品はないぞ」
第一これから世界一周の旅に出るだろうに。
「んじゃ、ちょっと行ってくるね。
見られてると緊張するからここで待ってて」
「あぁ、わかった」
「いってらっしゃい」
ナオが福引所に向かったのを確認して俺はユキに切り出した。
どうしても言っておかなければと思ったことがあったからだ。
「…ユキ」
「なに?」
「お前の親父はまだ生きている」
「!」
「人魂になって、今も、廃墟となったムーンブルクの城を漂っている。
お前のことが心配で死んでも死にきれないらしい」
「そんな…お父様…」
「昨日、ムーンブルクには戻らないと言っていたが…本当にいいのか?」
「…」
沈黙が続いた。
ユキは何か言おうとしているが、言葉が見つからないのだろう。
しばらくしてようやく口を開いた。
「…まだ、認めたくないのよ…」
「ん?」
「ムーンブルクが滅亡したこと。お城が廃墟になってしまったこと。
事実だというのは分かっていても、まだ心の準備ができてないの。
わたしの中ではまだムーンブルクは今も残っていて…
まだ…忘れたくないのよ。
わがままだというのは分かっているわ。でも…ごめんなさい」
「…あぁ」
「カイ」
「ん?」
「お父様のこと…教えてくれてありがとう」
「…あぁ、却ってすまないな。残酷かとも思ったんだが
言っておかなければと思ってな」
「…うん」
「ただいまー」
「おかえり、何が当たったの?」
「えーと、福引券ー」
「…」
「…」
「でー、その福引券を使ってもう1回やったら、聖水もらっちゃった。
残念だなぁ、祈りの指輪ほしかったのにな」
「まぁ、次があるわ」
「うん、そうだね」
「じゃ、そろそろ行こうか」
「そうね」
「…あぁ」