作者注:ここの話はパラレルです。
原作では王女は城から1歩も外に出ていません。
パラレルが苦手の方はご注意ください。
なお、この話を飛ばしても進行上何の不具合もありません。
次の話→
22.呪文かぁ。
旅の準備も整い、風の塔に向けて出発しようとしていたら
誰かに服のすそをつかまれた。
誰だろうと思って振り返ると
そこにはサマルトリアの城にいるはずの妹がいた。
「おにいちゃん、わたしもつれてって」
「は?だめだって言っただろ。
ここまでお前どうやって来たんだよ。父上はどうしたんだ?」
「んーとねえ、だめだだめだってうるさいから、カエルにしてきちゃった」
「な、なんだってー?」
「わたし、まほう使えるようになったんだよ。
前おにいちゃん、まほう使えないからつれて行かないっていってたよね。
使えるからつれてってつれてってつれてってよー」
「…あのな、遊びに行くんじゃないんだ。
それに大体、蛙ってなんだよ蛙って」
「あのね、パパ、こないだ世界のまほうつかいを集めて
サマルトリア魔法フェスタっていうのをお城でひらいたの。
いっぱいまほうつかいがいればハーゴンもたおせるかもしれないって。
それでね。海のむこうから来たえらいまほうつかいの先生に
わたしもまほう教えてもらったんだ。
このまちにだって、まほうつかって飛んできたんだよ」
「じゃ、父上を蛙にする魔法も先生に教わったのか?」
「うん」
「すぐに戻してこい!お前は悪の魔女か!」
「やだ!つれてってくれるまでうごかないから!」
はぁ、…ため息が出る…。
王様が蛙になって王女様が城から消えたなんて
今頃サマルトリアは大騒ぎだろうなぁ。
まったく、わが妹ながら、なんでこんなにわがままなんだか。
「ごめん、もうちょっと待ってて。」
小声でユキとカイにささやく。
ふたりとも仕方ないなぁって顔でこっち見てる。
「ナミ、父上もお城の人たちも、ナミがいなくなって心配してるよ。
帰っておとなしくしてないとだめじゃないか。
さ、キメラのつばさ買ってあげるから、お城に帰るんだ」
「やだ!」
そう言って差し出したぼくの手を振り払い、呪文を唱え始めた。
「レビテト!」
?聞いたことない呪文だな。何をする気だ?
ふわっ
ナミの体が少し地面から浮いて静止した。
「…カイ、あの子浮いてるわね」
「…ああ。こんな呪文あるのか?」
「わたしの知るかぎりではこの世界にはない呪文ね」
「…それ、やばくないか?」
「…さあ?」
「つれてってくれないなら、おにいちゃんもカエルにしちゃうんだから!」
げ、それは困る。
ふわふわ浮かびながらぼくの手を逃れてカイたちの方に飛んでゆくナミ。
ぽかっ
「いたっ。なにするのよっ!」
カイが軽くげんこつで頭を叩いたらしい。
「…帰れ」
「さからうならあなたもカエルにしちゃうから!」
ナミが手を高く振りかざした。やばい。カイが蛙になっちゃう。
「マホトーン!」
ナミに向かって呪文を放った。
「え?どうして?呪文が出ない」
ほっ、成功したらしい。
ちょっときつく言ってでも城に帰さないとだめだな。
困ったな、どうしよう。
「まかせて」
横からユキの声がした。
「ナミちゃん、わたしの話を聞いて」
「やだ!あなたもわたしのこと叱るんでしょ?」
「そうじゃないわ。あのね、あなたには
わたしたちと冒険するよりもずっと大事な使命があるのよ」
ユキ…一体何を言う気?
カイと顔を見合わせたら、カイも不思議そうな顔をしていた。
「…しめい?」
「そうよ。ナミちゃんはお城に帰って、身につけた魔法の力で
王様やお城の人たちを守らなければならないわ。
ナオが旅に出ている今、王様を守れるのはあなただけなのよ」
王様を守れる、その言葉のあたりでユキの顔がふっと翳った。
ああそうか、ユキはきっと、王様を守れなかったことを後悔しているんだ。
昨夜ひとりで泣いていた姿が浮かんだ。
「…わたしが…パパを…まもる?」
「そうよ。大変な使命だけど、できるわよね?
ナミちゃんもロトの子孫だものね?」
「うん、できる!わたし、パパのこと、まもってみせる!」
「そう、頼りにしているわ。わたしたちが戻るまで
大変だけどがんばるのよ」
そう言ってにっこり微笑み、ナミの頭をなでた。
「…すげぇ」
「…うん。あんなに素直なナミ、初めて見た」
「…それは兄貴としてどうかと思うが?」
「おにいちゃん、わたし、お城に帰る。
パパを元の姿に戻さなきゃ。
じゃ、またね」
「そらひえーん!」
ばびゅーん、ばびゅーん、ばびゅーん
変な呪文を唱えてナミは空の向こうに飛んで行った。
あいつ…どんな奴に呪文習ったんだ…?
「こんな感じでいいかしら?」
「え、あ、うん、ありがとうユキ」
「ううん、仕方ないわ。まだ小さいし、ナオと離れるの、きっと嫌なのよ」
「ユキ…あの、王様は」
「言わないで!…ごめんなさい、もう少し待ってほしいの」
「…わかった、ごめんね」
やっぱりムーンブルクのお城のことは
ユキにとってかなりショックだったんだろうな。
いま、そしてこれから、ぼくにできることは何だろう。