ようやく泣き止んだユキと
いきなりの抱擁の混乱から目覚めたナオが
こっちに向かって歩いてきた。
「カイ、やっぱりあの犬がユキだったんだよ。
ユキ、人間に戻れたんだよ。
ぼくうれしいよぅ」
「…よかったな」
手放しで喜んでいる。
まぁ、それはそうだろうな。
あれだけ苦労して取ったかがみが役に立ったんだ。
しかも大好きなユキが元に戻ったとなれば
うれしくて当たり前だ。
と、こっちを見ているユキと目が合った。
…美人だな。好みではないが。
「改めてお礼を言うわ。
ナオ、カイ、助けてくれてありがとう。
ずっとあの姿のままだったらどうしようかと思っていたの。
…あなたたちが知っているとおり、ムーンブルクは
魔物の襲撃を受けて…」
「…あぁ」
ユキの瞳がふっと翳った。
やっぱり親父のことが気になるんだろう。
でもそれは一瞬のことで、すぐに顔を上げ強い瞳で見つめてきた。
「わたしもあなたたちと一緒に行かせてほしいの。
お父様やお城のみんなをひどい目に遭わせたハーゴンを
なんとしても倒したいのよ」
「…長い旅になるかもしれないぞ?」
「かまわないわ。
ハーゴンを倒すまではムーンブルクには帰らない。
わたし、そう決めたのよ」
「…いいのか?ムーンブルクの城にはおまえの親父が」
「言わないで!…もう、決めたの」
「…わかった。じゃ、今晩この町で休んだら出かけよう。
俺は情報を集めてくるから、ナオとユキは宿に行って
先に休んでいるといい」
ちょっと気を利かせておくか。
珍しくナオもがんばったことだしな。
「うん、ありがとうカイ。じゃ、ユキ、宿に行こうか」
「ちょっと待って」
「なあに?」
「ごめんなさいナオ、先に行ってて。わたしもすぐに行くわ」
「ん?どこか行くの?ひとりで平気?」
「大丈夫よ。すぐ戻るわ」
そう言うとユキは町のはずれの方に歩いていってしまった。
残念だったなナオ。
「じゃ、ぼく宿に行ってるね」
「あぁ」
心なしか落胆しているように見えなくもないが…気にしないでおくか。
ナオが宿に向かうのを見届けてから
俺はユキがさっき行った方に向かった。
!
あれは…ユキと…一緒にいた兵士か?
…何を話しているんだ…?
ちょっと近づいてみるか。
「申し訳ございません!
私は、あの犬が姫様だったとは気付かずに
なんと無礼なことを!」
がばっ
兵士が土下座するのが見えた。
そのまま兵士は言葉を続けた。
「私はあの日、王様や姫様をお守りせず
ひとりこの町に逃げた卑怯者です。
姫様、大変申し訳ありません。
謝ってすむことではないのは分かっております。それでも」
「もういいのよ、顔を上げて」
ユキが兵士の横に膝をついた。
「あなたは悪くないわ。
大丈夫、わたしは生きています。
あなたも生きていてくれてよかった。
もう自分を責める必要はないのよ。
これからは、この町の人たちを守ってほしいの」
「…姫様…」
「無礼だなんて思っていないから気にしなくていいのよ。
あなたがいてくれたおかげで、犬でいる間も
絶望せずにすんだのだから」
「あ、ありがとうございます!」
「それではわたしはそろそろ行くけれど、
この町のこと、頼みましたよ」
「はい!わたしの命に代えても守り抜きます!」
「頼もしいけれど…命を粗末にしないでね」
すくっとユキが立ち上がり、その場から去った。
何と言うか…俺やナオにはない威厳みたいなものがあるな。
さて、情報を集めに行くか。