城を出たぼくたちは、ラーのかがみがあるという
毒の沼地を捜して、東の方に向かった。
ぼくはカイにどうしても聞いておきたいことがあったので
歩きながら切り出した。
「ねぇ、カイ」
「ん?」
「…ムーンブルク壊滅のこと、知ってたんだろ?
どうして教えてくれなかったの?」
突然、カイが立ち止まった。
くるっと振り返りじっとぼくを見ている。
「…」
…何を言おうとしているんだろう。
「…城に、ムーンブルクの兵士が来たんだ。
彼は、すぐに手当をしないと助からないような重傷で
でも、それよりも先に俺の親父に会わせてくれと」
初めて聞く話だった。
てっきりぼくは、ムーンブルクから伝書鳩が飛んできて
「モンスターにこの間襲われた。そちらも注意」
その程度のことかと思っていたんだ。
カイの話は淡々と続く。
「彼はムーンブルクの壊滅を親父に告げると息絶えた。
そして俺の親父は俺に打倒ハーゴンの命令を出した」
「ナオ」
突然カイの眼光が鋭くなった。
「お前は何の為にこの旅に出たんだ?」
「ぼくは…」
…何も言えなかった。
人の死、世界の破滅、そんなことを想像すらせずに
ピクニック気分で旅に出た自分が恥ずかしかった。
「俺はもう目の前で人が死ぬのを見たくない。
だから、絶対にハーゴンを倒してこの戦いを終わらせる。
それが…勇者ロトの子孫である俺たちの務めじゃないのか?」
いつものようにぶっきらぼうにではなく
何かを教えるようにカイは語っていた。
「お前に覚悟が出来ないまま知らせたくなかった。
長い旅の中でこれからもっと辛いことがあるかもしれない。
怖いなら…サマルトリアに帰ってもいいんだぞ?」
…帰る?サマルトリアに?
突然目の前に提示された選択肢。
居心地のいいお城が心に浮かんで消えた。
次に心に現れたのは…
涙を浮かべてぼくに何かを訴えていたムーンペタの犬だった。
…ユキを…助けなきゃ。
顔を上げてカイの目を見た。
あんなに強い目はまだ出来ないけれど、カイに言った。
「サマルトリアには帰らない。
ぼくも…ロトの子孫だ」
「…そうか」
そう言うとすたすたと歩き出した。
ぼくも慌てて後を追う。
いつか、ぼくもカイみたいに強くなれるかな。
力だけじゃなくて気持ちも。
もっと、もっと強くなりたい。
顔をあげてカイの背中を見た。
肩越しに橋が見えた。
橋の向こうには…毒の沼地。
きっとあそこだ。
目の前の背中をかけ足で追い越した。