いきなり話しかけられた。
座って声のする方を見上げると、男の子がいた。

男の子はしゃがんでわたしと目の高さを合わせてにっこり笑った。
「うわぁ、かわいいなぁ。ふわふわしてるー」
頭をなでてきた。
「リボンついてるから女の子だよね」
そう言う男の子の顔は緩みっぱなし。
…どこかで会ったことあるような気がするんだけど…。
お城に来たことある人かなぁ。
つかつかと男の子の後ろからもうひとり歩いてきた。
この男の子よりちょっと背が高いみたい。
「…ナオ、俺武器屋行くけどどうする?」
「んー、ぼくこの子とお話してるー」
「…そうか」そう言うとすぐに立ち去った。
!
ナオ?目の前の男の子はナオなの?
よく見てみると昔の面影がなんとなく残ってる。
「くぅ~ん(気づいて!わたし、ユキだよ!)」
「ああごめんごめん、大丈夫、まだ出かけないから」
そう言うとナオはぺたっと地面に座った。
がりがりがり。
気づいて欲しくてナオの服をひっかいてみた。
手を軽くつかまれた。ぎゅっと握ってぶんぶんと振る。
「ひっかいちゃだめだよー、なかよしなかよし」
…握手してるつもりらしい。
「ぼく犬大好きなんだー」
ナオはいきなり語りだした。
「さっき話してたのは一緒に旅をしてるカイってやつで
強いんだけど無口で無愛想でつまんなくてさー。
あいつもきみみたいにかわいいといいのにねー」
語りながらも手はずっとわたしの頭をなでている。
「ぼくとカイさぁ、悪い奴を倒すために旅をしてるんだ。
もうひとり仲間がいて、これから迎えに行くの。
この町の近くのお城のお姫様なんだけど、
すっごいかわいいんだよ」
「わんわんっ!(それ、わたしのことだ!)」
「ああごめんごめん、きみもかわいいってば。怒らない怒らない」
「おーい、ナオー」
「あ、カイが呼んでる。買い物終わったのかな、行かなきゃ」
!
行っちゃう!どうしよう。付いていかなきゃ。
「なあに?きみも一緒に行きたいの?お外あぶないよ?」
「わんわん!(お願い!気づいて!)わん!(お願い!)」
ナオがわたしに気づく気配はない。
せっかく会えたのに。どうしよう、どうしよう。
「あー…泣かないでー。おめめうるうるしてる…ちょっと待ってて。
カイに頼んでみる」
カイがこっちに歩いてきた。
ナオが立ち上がって聞いてる。
「カイ、この子も一緒につれてっちゃダメかなぁ?」
「は?お前アホか?だめだめ」
「ぼくがきちんとお世話するからー。
あぶなかったらぼくがきちんと守るからー。おねがいー。
泣いてるもん、かわいそうだよー」
…あれじゃ駄々っ子だよ…。もっと言い方あるでしょ…はぁ。
「だめ。俺犬きらいなの」
「おーねーがーいー。」
「だめだったらだめ。あきらめろ。」
「ごめんね、カイ犬怖いからつれてっちゃダメだってさ」
「ばっ、怖いなんて言ってない!」
「でもだめなんでしょ?いじわるー」
「くぅ~ん」
ナオはもう一度しゃがんでわたしと目を合わせた。
手はぎゅっとわたしの手を握っている。
「ごめんね、きみを連れて行くことはできないみたい。
本当に残念だよ。でもね」
ナオはここで一呼吸おいてわたしをじっと見つめた。
「ぼくたちがハーゴンを倒して、世界が平和になったら
君のことを必ず迎えに来るよ。そしたら
ぼくのお城でいっしょに暮らそう。…いいよね?」
…なんかプロポーズみたいなこと言ってる。
「じゃあまたね」
すたすたと歩くカイ。
何度も振り返りながらわたしに手を振るナオ。

…この姿じゃ町の外までついていくことはできない。
わたしはふたりの後姿をずっとずっと見ていた。