「ちょっとこの大陸を歩いてみないか」
カイのこの言葉でわたしたちはアレフガルドを歩くことにした。
そんなに広くないとは言っても、この大陸を
あてもなく歩くのもどうなのか。
そう思ったわたしはカイに尋ねてみた。
「とりあえずどこに向けて歩くの?」
「ん、そうだな、とりあえず、リムルダールの方に行こうかと思う」
リムルダールから西に歩くと、ロトの勇者が架けたという虹の橋がある。
そう言えばナオはこないだもその橋を見たがっていた。
確かあの時は竜王の城の帰りには魔法を使ったから
結局橋を見られなかったんだったわ。
「え、ほんと?じゃあさ、虹の橋!ぼく虹の橋見たい!」
ナオもそれを覚えていたらしく、嬉しそうにはしゃいでいる。
…カイもいいところあるじゃない。
「リムルダールの南に賢者のほこらがあるってほんとなのかしら」
ロトの勇者はそのほこらで虹のしずくを手に入れた、と昔語りにある。
「どうだろうな。それを確かめに行ってみようかと思っているんだが」
そしてわたしたちは、リムルダールを目指して出発した。
竜王の城にあった世界地図によると、リムルダールは
ラダトームから南東の方角にあり、ぐるっと時計回りに歩くと着くらしい。
ひたすら歩き、海峡のトンネルをくぐり
ラダトームを出てから半日ほどで、
かつてリムルダールであったであろう場所に着いた。
「…何もないわね」
「…ああ」
想像していたような町はそこには無かった。
やはり100年以上も経つから仕方がないのかもしれない。
わたしたちは南にむけて歩いた。
「ここかな?」
目の前には小さくて今にも崩れそうなほこらがあった。

足元に気をつけて中に入る。
階段を下りると広い空間に出た。
行く手に老人が立っている。
彼の後ろに見えるのは…。
「ねえ、あれ、あのかぶと、ロトのかぶとじゃない?
ロトのつるぎと同じような紋章がついてるよ?」
ナオが小声で話しかけてくる。
同じことを思ったらしい。
老人の後ろにある青いかぶと、あれはロトのかぶとに違いない。
「ねえカイ、ちょっとあのおじいさんと話してみて」
「お前がやってくれると助かるんだが。交渉は苦手なんだ」
はぁ。仕方ないわね。
「あの、私たちはハーゴンを倒す為に旅をしている勇者ロトの子孫で…」
そう言った途端、その老人がぎろっとこっちを睨んだ。
「しるしは?」
「え?」

「お前達がロトの子孫であるならしるしがあるはず。
…愚か者め。ここから立ち去るがよい!」
「あの、待ってください。証拠ならあります。…カイ」
カイの方を向き、ロトのつるぎを指差す。
カイが老人につるぎを見せたところ、その老人は事も無げに言った。
「それがどうした。そのロトのつるぎは竜王の城にあったものであろう。
誰でも持ってこれるような物がしるしになると思うか。
…時間の無駄だ。ここから立ち去るがよい!」
何か険悪なムードになってきたわ。
どうしたらいいのかしら。
どうしてこの人はわたしたちを認めてくれないのかしら。
…頭にくる。
ふとカイを見ると、下を向いて何か考え込んでいる。
「…カイ?」
やがてカイが顔を上げ、老人に言った。
「出なおします」
「そうか。だが、しるしが無ければ何度来ても同じだ」
「わかっています。それでは失礼します。…行くぞ」
そう言うと、カイは出口に向かって歩き出した。
「あ、待ってよカイ」
ナオが追いかける。わたしもその後を追った。
ほこらを出て、虹の橋に向かって歩きながらこぼした。
「何なのよあれ。しるししるしって。しるしって何よ?」
「ん、わかんない。でも頭にくるよねー。
つるぎ装備してるからロトの子孫!じゃだめなのかなあ?」
「そうよ、全く。何でカイは何も言わずに引き下がったの?
ひとこと言ってくれればよかったのに」
「ん、ああ」
何だか気の抜けた返事が返ってくる。
「…カイ?どうしたの?」
「俺もしかしたら、その、しるしってやつ見たことあるかもしれない」
ぼそっと言った。
「え、どこで?」
「ローレシア。昔まだ小さい頃、親父が見せてくれたような気がする」
「そうなの?じゃ、王様に聞けば何か分かるかもしれないね」
「ん、そうだな。まあ、ここからローレシアは遠いし、
近くを通った時にでも寄って聞いてみるか」
なかなかのんきなことを言っている。
「で、ここが虹の橋らしいぞ」
「ん、ありがと。って…普通の橋にしか見えないんだけど」
「そうね。もっと神秘的なのを想像していたわ」
「残念だったな。ま、せっかくだから渡るか」
橋を渡って、こないだも行った竜王の城まで歩く。
とくに竜王のひ孫には用は無いのでこのまま帰ることにする。
目の前にラダトームの城が見える。
「こんなに近くにあるのに、あんなに歩かなきゃいけないのって不毛よね」
今日一日歩いた距離を考えてため息が出る。
「でもさ、ここからラダトームまで橋が架かってたら、別の意味で嫌だよ」
「まあね。それもそうだわ」
ここに橋があったら、あっという間にラダトームは壊滅してしまうだろう。
「じゃ、帰ろうか。ふたりともぼくにつかまって。いい?
ルーラ!」
次の瞬間、わたしたちはラダトームの城の前に立っていた。
ルーラ…便利だわ。わたしも使えたらいいのに。