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    BBS変えました。前のはこちらです。

     

    語り手

    ローレシアの王子 カイ (31)
    サマルトリアの王子 ナオ (33)
    ムーンブルクの王女 ユキ (26)
    未分類 (2)

     

    記事(上に行くほど新)

    ナオ65.放浪の果てに。
    ユキ64.月のかけら。
    ナオ63.テパの朝。
    カイ62.山奥の街へ。
    ユキ61.雨露の糸。
    ナオ60.いらっしゃいませぇ。
    カイ59.コスプレ男。
    ユキ58.一番星になって
    ナオ57.何してたの?って聞いてみた。
    ユキ56.魔道士の杖。
    カイ55.強すぎる。
    ナオ54.祈りの指輪。
    ユキ53.専用の。
    カイ52.怪しい老人。
    ナオ51.逃げ出してしまったんだ。
    カイ50.ヤミ。
    ユキ49.ペルポイでお買い物。
    ナオ48.世界樹。
    カイ47.抜けない。
    ユキ46.ちんどんやになりました。
    ナオ45.怪しい神父。
    カイ44.複雑。(50expressions-16)
    ユキ43.タシスンの犬。
    ナオ42.強い者が好きだ。
    カイ41.時事ネタも書きます。(パラレル)
    ナオ40.地図を広げて。
    カイ39.ぱぷぺぽ係、初仕事。
    ユキ38.どうして(50expressions-23)
    カイ37.まいったな(50expressions-29)
    ナオ36.任命。
    ユキ35.取引。
    カイ34.竜王の城にて。
    カイ33.お隠れになりました。
    ナオ32.ラダトームの城では。
    カイ31.ゆらゆら。
    ナオ30.無理してない?
    ユキ29.北へ行こうらんららん。
    カイ28.ドラゴンの角。
    ナオ27.砂漠を越えて。
    ユキ26.遠回りの理由。
    カイ25.内緒話。
    ユキ24.次の目的地はどこ?
    ナオ23.風の吹く塔。
    カイ22.呪文かぁ。
    ナオ21.サマルトリア魔法フェスタ。(パラレル)
    ナオ20.だってぎゅーだよ。
    カイ19.王女の威厳。
    ユキ18.ありがとう。
    ナオ17.ぼくがやらなきゃ。
    カイ16.調子が狂う。
    ナオ15.もっと強く。
    カイ14.ラーのかがみ?
    ナオ13.認めたくないけど。
    カイ12.何を見たとしても。
    ユキ11.きみ、ひとりなの?
    ナオ10.かわいいなぁ。
    カイ9.ムーンペタへ。
    ナオ8.ローラの門を通るぞ。
    ユキ7.兵士との出会い。
    ナオ6.銀のカギの洞窟。
    ユキ5.ここはどこだろう。
    ナオ4.いやーさがしましたよ。
    カイ3.ったく、どこほっつき歩いてるんだあのアホは。
    ナオ2.夜逃げのように出発。
    ユキ1.ムーンブルク陥落。

     

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    命は明日枯れるかもしれないと思えば 今という瞬間の重みを知るだろう
    ラーのかがみ
    ムーンブルクの王女 ユキ
    1.ムーンブルク陥落。

    よく晴れた日だった。
    わたしはお父様と中庭でお茶を飲みながら
    お話をしていた。

    「王様!お逃げくださいっ!」
    突然兵士の声。少し遅れて地震がおこり、城全体がぐらぐらと揺れる。
    どーん、という轟音。城のみんなの悲鳴。
    一体何がおこったのだろう。

    中庭の入り口が向こう側から破られ、羽の生えた化け物がこっちに飛んできた。
    ぎらぎらとした目、耳まで裂けた口。
    震えが止まらない。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
    わたしはお父様の後ろに隠れた。

    「さてはハーゴンの手のものか!」
    「クケケ、そのと~おり~。ロトの子孫を根絶やしにするのだ~♪」
    「そうはさせん!ユキ、お前は後ろの階段から逃げるのだ」

    後ろの階段から逃げるのだ。

    どんどん魔物が増えてくる。
    お父様は魔法で撃退していたけど、数が多すぎる。
    護衛の兵士もひとり残らずやられてしまった。
    「早く!早く行け!」
    わたしは促されるままに階段を駆け下りた。ひんやりとした地下の空気が体を包む。

    地下には見たこともない魔導士がいた。
    わたしに向けられる杖。その光に包まれ、わたしの意識は途絶えた。

    「ユキ…お前だけは生きてくれ…」
    これがムーンブルク王の最後の言葉だった…。
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    ムーンブルクの王女 ユキ
    5.ここはどこだろう。

    まぶしい太陽の光で目が覚めた。
    まだ頭がぼーっとする。

    あの時…わたしは地下室に逃げて…
    待ち構えていた魔道師の杖から出る光を浴びた。
    その後のことが思い出せない。

    ここは…どこなのだろう?
    どうやら外みたいだけど…街?

    あれ?何か変。地面がいつもより近い。
    何で?わたし四つんばいになってる?
    とりあえず立ち上がらなきゃ、って。
    …できない。どうしちゃったんだろうわたし。

    お城はどうなったんだろう。お父様は無事なのだろうか。
    ふと周りを見回したら、子供と目が合った。
    かわいい、そう思って近づいたら、その子がいきなり泣きだして
    お母さんのもとに走って行ってしまった。
    どうして?

    とりあえずここがどこだか分からないと何も出来ない。
    近くにいた人に声をかけて尋ねてみよう。

    「ムーンブルクのお城はどこですか?」

    そう言ったつもりだった。でもわたしの口からはその言葉は出ず
    「わんわんっ」
    え?何で?しゃべれない!

    話しかけようとした人も走り去ってしまった。
    どうしよう、どうしよう。
    わたし、どうしちゃったの?

    あてもなく歩き回った。
    誰か、教えて。ここはどこなの?お城はどうなったの?
    しばらく歩き回っていたら喉が渇いた。
    いつもなら誰かに頼めば飲み物を持ってきてくれた。
    でも、今わたしの周りには誰も…誰もいないんだ。
    水…水が飲みたい。

    泉が目に入った。あの水は飲めるかな。
    とぼとぼと泉まで歩き、水を汲もうとした。
    あれ?手がうまく動かせない。
    どうしよう、飲めないよ。
    喉…乾いた…。

    誰も見てないよね。直接泉に口をつけて水を飲むことにした。
    お父様に見つかったらはしたないって怒られちゃう。
    ああ、冷たい。おいしい。

    水を飲み終わり、ふと泉を見た。
    泉に映っている犬と目が合った。
    え?犬?わたし?
    信じられない。
    「何で?」そう言ったつもりだったけど「わんっ」って聞こえた。
    泉の中の犬も同じように「わんっ」って口を開けた。
    信じられないけど、あの犬は…わたしだ。

    これからどうしよう。
    わたしずっと犬のままなのかな。
    お水は飲めるけど、ごはんとかどうすればいいんだろう。
    誰か…助けて…。

    涙があふれてきた。
    この手だと涙をぬぐうこともできない。
    目の前が滲んでいく。
    地面に涙の雫が落ちた。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    7.兵士との出会い。

    わたしが犬の姿になってから数日が過ぎた。
    最近は町の人もわたしを怖がらなくなり、
    パンや水を分けてくれるようになった。
    最初は悲観してたんだけど、
    いつまでもくよくよしていても仕方がない。
    そう思えるようになったのは、街角でこんな噂を聞いたからだ。

     ローレシアの王子とサマルトリアの王子が
     ハーゴンを倒す旅に出たらしい。

    ローレシアの王子とサマルトリアの王子って…
    ずっと昔に会った事のあるふたりの王子をまぶたの裏に浮かべてみた。

    カイ…ぶっきらぼうで口数が少なかったわ。あれは絶対むっつりスケベね。
    ナオ…なんだか頼りなかったような気がするわ。あの時もべそかいてたし。

    でも。
    ふたりがハーゴンを倒す旅に出たのならきっと
    わたしのことも元の姿に戻してくれるはず。
    その時までがんばって待たなければ。

    わたしは心の中で拳を握り締めた。
    と、視界の片隅に見覚えのある兵士の顔が映った。
    彼…お城で見たことがあるような気がするわ。
    なんだか元気がないみたい。
    どうしたのかしら。行ってみよう。

    「くぅ~ん(どうしたの?)」
    「…ん?君は?」

    彼をじっと見つめてみる。
    何か語りたそうに見えるのはわたしの気のせい?
    「かわいいなぁ」

    やがてぽつぽつと彼は語りだした。
    近くの草むらに腰掛けた彼の横にわたしも座る。

    …聞いてくれるかい?
    君に話しても仕方がない事かもしれないけれど、
    もうわたしには話をする相手もいないんだよ。
    …わたしはムーンブルク城の兵士だったんだ。
    でも、もう兵士失格かもしれないな。
    あの日、魔物の襲撃を受け、炎上する城から
    わたしは、王様やユキ姫様を見捨て
    仲間たちのやられる声を背中に聞きながら
    逃げ出してしまったんだ。
    なんてわたしは卑怯者なんだ。
    今頃王様やユキ姫様は…。

    ぽたっ。
    彼の膝に雫が落ちた。
    ふと見上げると彼は涙をこぼしていた。

    「きゅ~(あなたのせいじゃないわ)」
    彼の手をぺろぺろと舐める。
    大丈夫よ、わたしは生きているわ。
    だからもう泣かないで。

    彼はただ静かにわたしの頭をなでる。
    きっと誰かに聞いて欲しかったのね。

    この姿のわたしはどうしてこんなに無力なのだろう。
    目の前で悲しむ人を見ても慰める事も出来ないなんて。
    人間に戻ったら彼に伝えたい。
    生きていてくれてありがとう。
    もう自分を責めるのはやめて。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    11.きみ、ひとりなの?

    いきなり話しかけられた。
    座って声のする方を見上げると、男の子がいた。

    だれ?
    男の子はしゃがんでわたしと目の高さを合わせてにっこり笑った。
    「うわぁ、かわいいなぁ。ふわふわしてるー」
    頭をなでてきた。
    「リボンついてるから女の子だよね」
    そう言う男の子の顔は緩みっぱなし。
    …どこかで会ったことあるような気がするんだけど…。
    お城に来たことある人かなぁ。

    つかつかと男の子の後ろからもうひとり歩いてきた。
    この男の子よりちょっと背が高いみたい。
    「…ナオ、俺武器屋行くけどどうする?」
    「んー、ぼくこの子とお話してるー」
    「…そうか」そう言うとすぐに立ち去った。

    ナオ?目の前の男の子はナオなの?
    よく見てみると昔の面影がなんとなく残ってる。
    「くぅ~ん(気づいて!わたし、ユキだよ!)」
    「ああごめんごめん、大丈夫、まだ出かけないから」
    そう言うとナオはぺたっと地面に座った。

    がりがりがり。
    気づいて欲しくてナオの服をひっかいてみた。
    手を軽くつかまれた。ぎゅっと握ってぶんぶんと振る。
    「ひっかいちゃだめだよー、なかよしなかよし」
    …握手してるつもりらしい。

    「ぼく犬大好きなんだー」
    ナオはいきなり語りだした。
    「さっき話してたのは一緒に旅をしてるカイってやつで
     強いんだけど無口で無愛想でつまんなくてさー。
     あいつもきみみたいにかわいいといいのにねー」
    語りながらも手はずっとわたしの頭をなでている。
    「ぼくとカイさぁ、悪い奴を倒すために旅をしてるんだ。
     もうひとり仲間がいて、これから迎えに行くの。
     この町の近くのお城のお姫様なんだけど、
     すっごいかわいいんだよ」
    「わんわんっ!(それ、わたしのことだ!)」
    「ああごめんごめん、きみもかわいいってば。怒らない怒らない」

    「おーい、ナオー」
    「あ、カイが呼んでる。買い物終わったのかな、行かなきゃ」

    行っちゃう!どうしよう。付いていかなきゃ。
    「なあに?きみも一緒に行きたいの?お外あぶないよ?」
    「わんわん!(お願い!気づいて!)わん!(お願い!)」
    ナオがわたしに気づく気配はない。
    せっかく会えたのに。どうしよう、どうしよう。
    「あー…泣かないでー。おめめうるうるしてる…ちょっと待ってて。
     カイに頼んでみる」

    カイがこっちに歩いてきた。
    ナオが立ち上がって聞いてる。
    「カイ、この子も一緒につれてっちゃダメかなぁ?」
    「は?お前アホか?だめだめ」
    「ぼくがきちんとお世話するからー。
     あぶなかったらぼくがきちんと守るからー。おねがいー。
     泣いてるもん、かわいそうだよー」
    …あれじゃ駄々っ子だよ…。もっと言い方あるでしょ…はぁ。
    「だめ。俺犬きらいなの」
    「おーねーがーいー。」
    「だめだったらだめ。あきらめろ。」

    「ごめんね、カイ犬怖いからつれてっちゃダメだってさ」
    「ばっ、怖いなんて言ってない!」
    「でもだめなんでしょ?いじわるー」
    「くぅ~ん」

    ナオはもう一度しゃがんでわたしと目を合わせた。
    手はぎゅっとわたしの手を握っている。
    「ごめんね、きみを連れて行くことはできないみたい。
     本当に残念だよ。でもね」

    ナオはここで一呼吸おいてわたしをじっと見つめた。

    「ぼくたちがハーゴンを倒して、世界が平和になったら
     君のことを必ず迎えに来るよ。そしたら
     ぼくのお城でいっしょに暮らそう。…いいよね?」
    …なんかプロポーズみたいなこと言ってる。

    「じゃあまたね」
    すたすたと歩くカイ。
    何度も振り返りながらわたしに手を振るナオ。
    ついていきたい。 つれてって。
    …この姿じゃ町の外までついていくことはできない。

    わたしはふたりの後姿をずっとずっと見ていた。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    18.ありがとう。

    最近日課となりつつある
    ムーンブルクの兵士の彼との午後のひと時を
    ぼんやりと過ごしていたら、
    向こうから見覚えのある人影が歩いてくるのが見えた。
    歩いてくるのはナオ、後ろの方でカイが木にもたれて立っていた。

    「おいでー」
    ナオが手招きしてる。
    兵士が促すようにわたしをなでたので
    わたしはナオのもとに走っていった。
    「くーん」
    「ちょっと待っててね」
    そう言うとナオはリュックをがさごそと漁って
    何か大きくて平べったいものを出した。

    「わう?(それなあに?)」
    「このかがみを見てごらん?」
    え?
    思わず後ずさった。
    「きゃん!(嫌!)」
    「え?どうしたの?こっちにおいで」

    犬の姿になってからのわたしは
    極力自分の姿が映るものを避けて過ごしてきた。
    商店の窓、泉の水、水たまり…
    事実だと言うのはわかっていてもやはり
    自分が犬であるということを認めるのには抵抗があった。
    どうしてナオはわたしにかがみなんて見せようとするの?
    わたし、かがみなんて見たくないわ。

    ナオに背を向けて兵士の元に走る。
    兵士がしゃがんでわたしを迎えようとしていたから
    その腕に飛び込もうとした。
    たぶんわたしがいじめられていると思ったのだろう。
    でも、後ろからナオの大きな声がした。

    「ユキ!」

    ぴたっ
    足が止まった。
    今、ナオ、ユキって呼んだ?
    もしかして…わたしのこと…分かってくれたの?
    あまりのうれしさに泣きそうになる。

    ゆっくり振り返ってナオの顔を見上げると
    ナオはにっこり笑ってもう一度
    「ユキ、おいで」
    確かにそう言った。

    一歩一歩近づいてくるナオ。
    あまりのことに混乱して体が動かない。
    ナオはわたしの目の前に来るとしゃがんで
    もう一度さっきのかがみを出して言った。
    「これを見てごらん。
     ぼくが君のことをもとの姿に戻してあげるよ」

    きっと…何か特別なかがみなんだわ。
    横目でちらっと見ると高級そうな縁取りが見えた。
    怖いけど…見てみよう。

    ゆっくり目を開けて、鏡のほうに顔を向けた。
    恐る恐るかがみを覗き込むとそこには…
    人間の姿のわたしが映っていた。
    …え?
    もう一度見ようと目を見開いたら
    かがみがまぶしい光を放って
    あっという間にわたしを包んだ。

    あぁ、このあたたかい光…とても気持ちがいい。
    なんだか…懐かしい気がする…何だろう…?

    ぱりーん!
    目の前のかがみが砕け散った。
    破片が飛んでこないようにとっさに手で顔を覆った。

    「…え?」
    今わたし、何をした?
    手が…動く。
    ぺたぺたと腕や顔や頭を触ってみた。
    「…夢じゃ…ない」
    足元を見ると見慣れたわたしの足が見えた。
    うれしくて思わず涙が出てきた。

    光がおさまってだんだん周りが見えてきた。
    ナオの顔が見えた。満面の笑みを浮かべている。
    この人が…わたしをもとの姿に戻してくれたのね。
    感極まってナオの首に抱きついた。

    「え?え?」
    「ありがとう…ありがとう…」
    涙が溢れて声がうまく出ない。
    でも、これだけは伝えたくてずっと
    ありがとうを繰り返した。

    戻れた…。
    犬の姿から人間に戻れたこの日。
    わたしはこの日を一生忘れないだろう。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    24.次の目的地はどこ?

    塔から帰って宿に泊まった翌日。
    作戦会議を開いた。それほど大げさなものでもないのだけれど。
    「で、これからどこに行くの?」
    「うーんそれなんだが」
    「…なあに?」
    「とりあえず西の方に向かってみようかと思っているんだが」
    とりあえずって何かしら。
    「西に何かめぼしいものでもあるのかしら?」
    「いや、特に無いんだが。それ以外の3方向は既に行ったから
     あとは西しかないなと」
    「あーなるほど。じゃ、行ってみようか」
    「そうね」

    あ、そうだ、思い出した。
    「ねぇカイ、出かける前に買ってほしい物があるんだけど」
    「ん?」
    「道具屋さんで聖なるナイフを売っていたの。
     残念ながらこの町では杖は扱ってないみたいね。
     そろそろひのきの棒より強い武器がほしくて。
     …だめかしら?」
    「いや、だめじゃないが。…じゃ、これで買ってくるといい」
    カイから財布を渡された。
    「うん、ありがとう。すぐ戻るわ」

    ナイフを買って戻ってくるとふたりが何か
    話しているのが見えた。
    …何の話かしら?

    「あ、ユキ、おかえりー」
    「ただいま。何の話してたの?」
    「あ、え、いや、なんでもないよー」
    あからさまに怪しい。
    「ナオ、俺たちがユキの悪口言ってたなんてばれたら
     宿屋の裏の路地に連れ込まれたあげく
     魔法で眠らされてぼこぼこにされるぞ」
    「…なんですって?」
    なんかすごい物騒なことを言われてるような気がするんだけど。
    「いや、なんでもない。ナイフ買ったか?じゃ、行くぞ」
    「すごい怪しいんだけど…?」
    なんかいつもより早口で、会話を切りたがってるように見えるんだけど。
    「気のせいじゃないか?それより」
    カイが目の前に手を出す。何だろうと思ったが、よく考えたら
    まだ財布を返していなかった。
    「あ、ごめんなさい」
    急いで財布を渡す。
    何の話だったかはすごく気になるけれど、話したくないなら仕方が無いわ。
    「じゃ、行きましょうか」
    「うん、そうだね」

    そしてわたしたちは西に向かって出発した。
    振り返るとムーンブルクの兵士の彼がいたので手を振った。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    26.遠回りの理由。

    何だか遠回りをしているような気がする。
    そう思ったのは、町を出て橋を渡り
    道なりに広がる草原を避けるように
    森を抜けたあたりだった。

    「どうして草原を通らないでわざわざ森を抜けるの?」
    カイに尋ねてみたけれど
    「ん、近道」
    この一言であっさりかわされてしまった。
    なんか引っかかる。
    向かってる方向からしてそんなに近くもなさそうだし。

    道は次第に険しさを増し、左手に岩山が立ちはだかる。
    視界も暗くなる一方のこの道を通る理由がわからない。
    ぱっとしない思いを抱えながらしばらく歩き
    森を抜けると、砂地につながる小さな橋が見えた。

    「行くぞ」
    すたすたと橋を渡るカイに遅れないようについていく。
    ふとナオの方を見ると、一瞬だけ後ろをちらっと振り返っていた。
    「?」
    その目はわたし達が通らなかった方の草原を向いていた。
    そこには一体何があるのかどうしても知りたくなり
    ナオの視線の方に目を走らせるとそこには
    沼地の真ん中に今にも崩れそうになっているお城があった。

    そこで分かった。
    町で二人が内緒話をしていたこと。
    不自然な道を通っていた理由。
    ふたりの気遣いに胸が熱くなる。

    「お前の親父はまだ生きている。
     人魂になって、今も、廃墟となったムーンブルクの城を漂っている」
    カイのセリフが頭をよぎった。
    あのお城ではきっとお父様がいまも
    わたしを待っている。
    会いたい。お父様に会いたい。…けれど。
    わたしは…まだ帰れない。

    「ユキ?どうしたの?」
    立ち止まるわたしを見て不思議そうにナオが言った。
    彼らの気遣いを、遠回りを無駄にしてはいけない。
    「ううん、なんでもないわ。行きましょう」

    橋を渡り、心の中でそっと誓いをたてる。
    絶対にハーゴンを倒して、お父様や城のみんなの仇をとる。
    わたしはひとりじゃない。がんばらなきゃ。

    海岸にある小さなほこらにカイが入っていくのが見えた。
    わたしも少し遅れてそのほこらの地下に通じる薄暗い階段をおりた。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    29.北へ行こうらんららん。

    5回くらい塔からのダイブを楽しんだわたしたちは
    待ちくたびれたカイの視線が痛かったので
    そろそろ出発することにした。

    「素朴な疑問なんだけど」
    ムーンペタを出たあたりから思っていたことを
    歩きながら訊ねることにした。
    「ん?何だ?」
    「北に行って行き止まりだったらどうするの?
     ずっと陸続きな訳ではないと思うんだけれど」
    「…あぁ、それは俺も思っていた」
    「地図とかあればいいんだけどねー」
    「移動手段が徒歩だけというのが痛いよな」
    「ええ、それなのよ。どうにかならないものかしら」
    「うーん」
    そう言うとカイは下を向いて黙ってしまった。
    「ま、何とかなるんじゃないかなぁ」
    ナオは楽観的に言う。
    「そうだといいんだけれど」
    「お、おい見ろ」
    「なあに?」
    カイが指差す方向を見るとそこには
    今まで見たこともないような大きな街があった。
    「わぁ。すごいねー。行ってみようよ」
    走り出すナオ。
    「わたしたちも行きましょ」
    「あぁ、そうだな」

    町の横に港が見えた。
    港…?
    そうだ。

    「船」
    「ん?」
    「借りることできないかしら?」
    「…どうだろうな」
    …もう少し積極的に考えてほしいところだけれど。

    街に足を踏み入れると、はるか向こうに大きな船が見えた。
    船着場にお爺さんがいる。
    「わたし、ちょっと頼んでみるわ」
    「ん、あぁ」
    「ぼくちょっとお店見てきてもいい?
     今までになく大きな町だから、品揃えも豊富かも」
    「ええ。いってらっしゃい」

    わたしは久々によそ行きの顔を作り、
    お爺さんに話し掛けた。
    「あの、恐れ入ります」
    「ん?何じゃ?」
    「わたくしたち、大神官ハーゴンを倒す為に旅をしているのですが。
     船を貸していただくことはできませんか?」
    「すまんの。よそ者には船を貸さないのが
     この街のならわしとなっておる。
     諦めてくだされ」
    「そうですか…失礼いたしました」
    頭を下げてお爺さんの前から去った。
    諦めてくだされ。

    カイのところに戻ってきてそのことを告げると
    「…そうか」
    それだけだった。
    がっかりしてるのか違うのか、いまいちよく分からない。


    ナオが血相を変えて走ってきた。
    どうしたのかしら。

    「あのねあのね!」
    「どうした?」
    「武器屋さんの裏で、女の人が襲われてて!」
    「なに!」
    「どうやら魔物みたいなんだ!
     でも、1匹じゃなくて!
     ぼくひとりじゃ倒せないかもしれないんだ」
    「行きましょう」
    「あぁ。ナオ、どっちだ?」
    「あ、えーと、こっち!」
    駆け出すナオについて走る。

    武器屋の陰から様子をうかがう。
    大変。
    「きゃああああー」
    絹を裂くような女の人の悲鳴がここまで聞こえる。
    「突っ込むぞ」
    「うん」
    え、あの、作戦立てたりしないの?
    何でこう行き当たりばったりなのかしら、はぁ。

    「おい、その人から手を離せ!」
    カイが魔物に向かって叫ぶ。
    どうでもいいけど魔物って人語を解するのかしら。
    あ、でも。お城を襲った魔物も何か喋っていたし
    魔物の間でも人語講座とかあるのかもしれないわ。

    「助けて!魔物たちがわたしをっ!」
    魔物の隙をついて女の人がこちらに走ってきて
    カイの後ろにささっと隠れる。
    彼女が走ってきた方角を見ると、外壁が欠けていた。
    多分ここから入ってきたんだわ。
    大きい街なのになんてずさんな。

    2匹のグレムリンがカイに向かって襲い掛かってくる。
    「そうはいくか!ギラ!」
    ナオの手から火の玉が飛んで、1匹に命中した。
    ラリホー!」
    残り1匹にラリホーをかけ、眠らせることに成功した。
    あとはカイがあっという間にやっつけてしまった。

    「ありがとうございます。
     なんとお礼を言ったらよいか」
    破けた袖が痛々しい。
    間に合ってよかったわ。
    「いえいえ、当然のことをしたまでですから」
    「そうですわ!是非お爺さまにも会っていってくださいな。
     港で船の番をしているはずですわ」
    あのお爺さんのことね。
    「さっきお話しましたけど」
    「いえ!是非!もう一度会っていただきたいのです!」
    なかなか強引ね。

    「お爺さま、ちょっと…」
    そう言うと彼女はおじいさんを連れて物陰に行った。
    内緒話ね。何かしら。

    戻ってきたお爺さんはさっきとはうって変わった表情をしていた。
    「孫娘を助けてくださった方々じゃな。
     先ほどは大変失礼をした。
     是非!船を使ってくだされ!」
    貸そう。

    横にいるカイに耳打ちした。
    「…ちょっと、カイ」
    「ん?」
    「船、貸してくれるって言ってるわよ。何か言ったら?」
    「ん」

    すっとカイがお爺さんの前に出た。
    「ありがたくお借りいたします。
     助かります。本当にありがとうございます」
    「いやいや、近くを通ったときにはまた立ち寄ってくだされ」
    「そうさせていただきます」
    「すぐ出発されるかな?」
    「もう少し街にいようかと思っています。街を出るときには
     お声をかけます」
    「ゆっくりして行きなされ」
    「はい」

    「さて、買物でもするか。ナオ、何かいいのあったか?」
    「うん、あったよ」
    「なあに?」
    「んーと、ユキが気に入りそうな杖と服があったー」
    「…俺やお前の武器はどうした」
    「見てないよ」
    「見ろよ」
    ナオ…わたしが杖欲しいって言ったの覚えてたんだ。
    ちょっとうれしいな。
    「お店行ってみましょ。武器もきっとあるわよ」
    「…そうだな」

    結局わたしたちは武器屋さんで
    3人分の身かわしの服とわたしの魔道士の杖を買った。
    残念ながらカイが欲しがっていた強い武器は置いていなかった。

    「ちょっと街の人の話も聞いてみようよ。
     何か情報があるかもしれないしさ」
    「そうね。手分けして聞いてきましょうか」
    「ああ、人も多いし、それがいいかもしれないな。じゃ、
     各自ひと回りしたらここにもう一度集まろう」

    数刻後…。
    「さて、どうだった?」
    「ここから東の大陸にアレフガルドがあるんですって!
     アレフガルドよ!ローラ姫の故郷よ!行きましょうすぐ行きましょう!」
    「ユキ珍しくテンション高いな」
    「だってアレフガルドよ!ずっと行ってみたかったの。
     あー楽しみ。…ところでふたりの収穫はどうだったの?」
    「えーと…ぼく、ぱふぱふしてもらったー」
    「ぱふぱふ?」
    ぱふぱふって何かしら…?お化粧?
    ※ドラクエ界におけるゆるい風俗みたいなもの…?
    カイに聞いてみようとカイの方を見ると、
    カイはなんだかやるせない表情でため息をついて
    ナオの肩に手をぽんと置いた。
    「ナオ…残念だがな、…あの美人はオカマだ」
    「え」
    あ、なんかナオが泣きそうな顔になってる。
    ふとあることに気がついた。
    「カイ…何で美人だって知ってるの?
     よくわからないけど、あなたもぱふぱふしてもらったとか?」
    「え、あ、いや、してもらって…ないぞ?」
    何か怪しい…。
    「じゃ、そろそろ行くか。アレフガルド、楽しみだなー」
    あからさまに怪しい。

    再び船着場に戻り、お爺さんに挨拶をして船を借りた。
    船に乗って街を出る直前に小さな小屋があったので入ってみると
    ひとりの商人がいた。
    「あのー」
    何か陰気に声をかけてきた。
    商人として暗いのってどうかしらと思うんだけど。
    「わたしの船が…全財産を積んだ船が沈んでしまったんです…。
     もし引き上げてくれたならその中からお礼をします。
     これから船旅に出られるのでしょう?
     もし見つけたらわたしのところに持ってきていただけませんか?」
    「ん、ああ、わかった。じゃ、ちょっと気をつけてみてみる」
    「お願いしますーしくしく」
    「あまり期待しないで待っていてくれ」
    「はいー」
    かわいそうな彼に手を振り、町の外に出る
    細い水路をくぐった。
    アレフガルド…楽しみ。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    35.取引。

    玉座に座っている者、それは
    昔ロトの勇者の冒険の絵巻物で見た竜王にそっくりだった。

    でも、変ね。
    竜王はあの時にロトの勇者に倒されたはず。
    じゃああそこにいるのは何者なのかしら。
    「とりあえず話してみるか」
    カイも同じことを思ったらしい。

    ゆっくりと玉座の前に行くと
    「よくきたカイよ。わしが王の中の王、竜王のひ孫じゃ」
    いきなり語りだした。
    ひ孫。

    「ちょっと、なんか怪しいわよこいつ。
     名乗ってないのに名前知ってるし」
    「ぼくたち有名なのかなぁ?」
    「とりあえず続きを聞いてみるか」

    「最近ハーゴンとかいうものが偉そうな顔をしていると聞く。実に不愉快じゃ」
    …悪者にも派閥ってあるのかしら?
    てっきり悪は悪で仲良しなのかと思っていたけれど、そういうわけでもないのね。
    「もしわたしにかわってハーゴンを倒してくれるなら
     いいことを教えるが、どうじゃ?」

    取引を持ちかけられている…のかしら?
    情報は大事よね…とりあえずハーゴンを倒すのは目的のうちな訳だし…
    そんなことを考えていたら後ろからカイの声がした。
    「断る」

    「ちょ、ちょっとカイ、いきなり断らなくてもいいんじゃない?」
    「魔物と取引なんかできるか」
    「そうは言ってもさー」

    「そうか、嫌か。お前は心の狭い奴だな」

    ぴしっ
    カイのこめかみのあたりに青筋が浮いた。
    「…魔物に…心が狭いと言われた…」
    なんかぷるぷる震えてるけど…怒ってるのかしら。

    「カ、カイ、落ち着いて。
     多分、勇者に取引を持ちかけるのは竜王家の家訓なんだよ」
    「そ、そうよ。ロトの勇者だって世界の半分を持ちかけられたらしいし」
    「…」

    ぎろっ
    カイが竜王のひ孫を睨んで言った。
    「…受けてやってもいいぞ」

    「そうか、本当はそなたのような心のせまい者たちに頼むのは
     気が引けるのだが…」
    心のせまい者たち。

    …一言多いわ。またカイの顔が険しくなってきたみたい。
    そんな事にはお構いなく竜王のひ孫は語りだした。
    魔物でも空気を読んでほしいわ。

    「かつてメルキドと呼ばれた町の南の海に、小さな島があるはず。
     まずそこに行け!」
    「そこには何があるのかしら?」
    「さあな、自分の目で確かめるがよい」
    「えー教えてよーケチー」

    とりあえずこれ以上話しても収穫は無さそうね。
    でも、せっかく来たのだから、頂くものは頂いておきましょう。
    わたしたちは部屋の隅にある、カギのかかった部屋に入り
    地面のバリアをナオのトラマナで無効化し、
    宝箱から世界地図を手に入れ、リレミトで地上に戻った。

    メルキド…この地図からすると…ここから南東ね。
    宿屋で一休みしてから行くことになりそう。
    一体何があるのかしら。
    ムーンブルクの王女 ユキ
    38.どうして(50expressions-23)

    「ちょっとこの大陸を歩いてみないか」
    カイのこの言葉でわたしたちはアレフガルドを歩くことにした。

    そんなに広くないとは言っても、この大陸を
    あてもなく歩くのもどうなのか。
    そう思ったわたしはカイに尋ねてみた。
    「とりあえずどこに向けて歩くの?」
    「ん、そうだな、とりあえず、リムルダールの方に行こうかと思う」

    リムルダールから西に歩くと、ロトの勇者が架けたという虹の橋がある。
    そう言えばナオはこないだもその橋を見たがっていた。
    確かあの時は竜王の城の帰りには魔法を使ったから
    結局橋を見られなかったんだったわ。

    「え、ほんと?じゃあさ、虹の橋!ぼく虹の橋見たい!」
    ナオもそれを覚えていたらしく、嬉しそうにはしゃいでいる。
    …カイもいいところあるじゃない。

    「リムルダールの南に賢者のほこらがあるってほんとなのかしら」
    ロトの勇者はそのほこらで虹のしずくを手に入れた、と昔語りにある。
    「どうだろうな。それを確かめに行ってみようかと思っているんだが」

    そしてわたしたちは、リムルダールを目指して出発した。
    竜王の城にあった世界地図によると、リムルダールは
    ラダトームから南東の方角にあり、ぐるっと時計回りに歩くと着くらしい。

    ひたすら歩き、海峡のトンネルをくぐり
    ラダトームを出てから半日ほどで、
    かつてリムルダールであったであろう場所に着いた。

    「…何もないわね」
    「…ああ」
    想像していたような町はそこには無かった。
    やはり100年以上も経つから仕方がないのかもしれない。
    わたしたちは南にむけて歩いた。

    「ここかな?」
    目の前には小さくて今にも崩れそうなほこらがあった。

    ここかな?

    足元に気をつけて中に入る。
    階段を下りると広い空間に出た。
    行く手に老人が立っている。
    彼の後ろに見えるのは…。

    「ねえ、あれ、あのかぶと、ロトのかぶとじゃない?
     ロトのつるぎと同じような紋章がついてるよ?」
    ナオが小声で話しかけてくる。
    同じことを思ったらしい。
    老人の後ろにある青いかぶと、あれはロトのかぶとに違いない。
    「ねえカイ、ちょっとあのおじいさんと話してみて」
    「お前がやってくれると助かるんだが。交渉は苦手なんだ」
    はぁ。仕方ないわね。

    「あの、私たちはハーゴンを倒す為に旅をしている勇者ロトの子孫で…」
    そう言った途端、その老人がぎろっとこっちを睨んだ。
    「しるしは?」
    「え?」

    しるしは?

    「お前達がロトの子孫であるならしるしがあるはず。
     …愚か者め。ここから立ち去るがよい!」
    「あの、待ってください。証拠ならあります。…カイ」
    カイの方を向き、ロトのつるぎを指差す。

    カイが老人につるぎを見せたところ、その老人は事も無げに言った。
    「それがどうした。そのロトのつるぎは竜王の城にあったものであろう。
     誰でも持ってこれるような物がしるしになると思うか。
     …時間の無駄だ。ここから立ち去るがよい!」

    何か険悪なムードになってきたわ。
    どうしたらいいのかしら。
    どうしてこの人はわたしたちを認めてくれないのかしら。
    …頭にくる。
    ふとカイを見ると、下を向いて何か考え込んでいる。
    「…カイ?」

    やがてカイが顔を上げ、老人に言った。
    「出なおします」
    「そうか。だが、しるしが無ければ何度来ても同じだ」
    「わかっています。それでは失礼します。…行くぞ」
    そう言うと、カイは出口に向かって歩き出した。
    「あ、待ってよカイ」
    ナオが追いかける。わたしもその後を追った。

    ほこらを出て、虹の橋に向かって歩きながらこぼした。
    「何なのよあれ。しるししるしって。しるしって何よ?」
    「ん、わかんない。でも頭にくるよねー。
     つるぎ装備してるからロトの子孫!じゃだめなのかなあ?」
    「そうよ、全く。何でカイは何も言わずに引き下がったの?
     ひとこと言ってくれればよかったのに」
    「ん、ああ」
    何だか気の抜けた返事が返ってくる。
    「…カイ?どうしたの?」

    「俺もしかしたら、その、しるしってやつ見たことあるかもしれない」
    ぼそっと言った。
    「え、どこで?」
    「ローレシア。昔まだ小さい頃、親父が見せてくれたような気がする」
    「そうなの?じゃ、王様に聞けば何か分かるかもしれないね」
    「ん、そうだな。まあ、ここからローレシアは遠いし、
     近くを通った時にでも寄って聞いてみるか」
    なかなかのんきなことを言っている。

    「で、ここが虹の橋らしいぞ」
    「ん、ありがと。って…普通の橋にしか見えないんだけど」
    「そうね。もっと神秘的なのを想像していたわ」
    「残念だったな。ま、せっかくだから渡るか」
    橋を渡って、こないだも行った竜王の城まで歩く。
    とくに竜王のひ孫には用は無いのでこのまま帰ることにする。

    目の前にラダトームの城が見える。
    「こんなに近くにあるのに、あんなに歩かなきゃいけないのって不毛よね」
    今日一日歩いた距離を考えてため息が出る。
    「でもさ、ここからラダトームまで橋が架かってたら、別の意味で嫌だよ」
    「まあね。それもそうだわ」
    ここに橋があったら、あっという間にラダトームは壊滅してしまうだろう。
    「じゃ、帰ろうか。ふたりともぼくにつかまって。いい?
     ルーラ!」

    次の瞬間、わたしたちはラダトームの城の前に立っていた。
    ルーラ…便利だわ。わたしも使えたらいいのに。
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