そんなに長くもない船旅の末、再びローレシアへの旅の扉がある島についた。
「ねえ、ザハンには寄る?」
何かザハンにやり残したことがあるような気がして尋ねた。
「んーそうだなー。確かここにも牢屋のカギの扉がなかったか?」
「あ、あったよね。それだ。寄ってみようよ」
「ふたりで行ってきて。わたし、タシスンの犬のところにいるわ」
「了解。多分すぐ戻るけど、積もる話もあるだろうからゆっくりするといい」
「…他所の犬と何の積もる話をしろと?」
「さあ?こないだ何か話してただろ?じゃ、行ってくる」
ユキ、来ないんだ。…残念。
町は相変わらず女の人ばかりだった。
この様子だときっと前聞いた話はほんとなのだろう。
「お、あれか」
カイが指差す先には確かに牢屋のカギの扉があり
そこに続く道にはダメージ床が敷き詰められていた。
「…踏んだら痛そう。ちょっと待って。トラマナ!OK行こう」
カギを開けた先は小さな部屋で、部屋の端には宝箱がぽつんとあった。
中には…何これ?
「…織機?」
「…だと思うけど…何でこんなに厳重に…」
「さあ?とにかく持って行こうか」
「何に使うんだろうね、これ」
「要らなかったら捨てればいいさ」
牢屋のカギで厳重に保管されているものなのにこんなんでいいのかなあ。
「あ。あっちにも牢屋がある。行ってみようよ」
そう言って入った牢屋にはさっきの部屋と同じように宝箱があった。
開けてみると指輪が入っていた。
「指輪?」
「あ、ちょっと見せて。…やっぱり。これ、祈りの指輪だよ」
「何か特別な指輪なのか?俺、アクセサリは全部同じに見えるんだが」
「うん。これはいいものだよ。とりあえず牢屋で長話もなんだし、出ようか」
「そうだな」
そしてぼくたちは牢屋のカギがかかった神殿から出た。
金のカギを掘り出したあたりに腰かけたカイがおもむろに尋ねてきた。
「で?その指輪は何なんだ?」
「ちょっと長くなるけどいい?」
「ああ」
「魔法使いは心の力を使って魔法を使うんだ」
「心の力?精神力とか集中力とかそんな感じか?」
「うーん、ちょっと違うかな。説明むずかしいから流すけど。
心の力の量には個人差があるんだ。ぼくよりもユキの方が量が多い。
でも、心の力は無限ではないから、魔法を使うとどんどん消耗していって
すっからかんになると魔法が使えなくなるんだ。
当然むずかしい魔法の方が消耗は激しい」
「それって回復できないのか?薬草飲むとか」
「んーと、睡眠をとれば回復するから、1日にあんまりいっぱい使わなければ平気なのね。
ただ、すごい強い敵に遭ったりして連続でいっぱい魔法使うとやばいんだ」
「そうか…」
「ほら、ぼくは剣も使えるから、心の力がなくなっても何とかなるんだけど、
ユキは武器がほとんど使えないから、心の力がなくなると」
「大変だな。自分の身も守れなくなる」
「そうなんだよ」
「魔法使いも大変なんだな」
しみじみとカイが言う。
「ま、ね。で、祈りの指輪なんだけど。これをはめて祈ると、心の力が回復するんだ」
「ほー、それはすごいな。
回復魔法使って祈っての繰り返しで宿屋要らなくなるんじゃないか?」
「せこいこと言うなよ。残念ながらそんなにうまくはいかないんだ。
この指輪さ、あまり使い過ぎると壊れちゃうんだ。
だから大事に使わないと」
「何だ消耗品か。…まあいい。じゃ、これはお前が持っているといい。大事にしろよ」
そう言うとカイはさっき手に入れた祈りの指輪をくれた。
はめて歩くと落としそうなのでポケットに入れた。
これはあとでユキに見せよう。
「ところで」
「ん?なあに?」
「ローレシアにいくのは構わないんだが、確か目的地はアレフガルドだったような」
「あ、そう言えばそうだったね。忘れてた」
「俺も。…まあいい。ローレシアの用事を済ませて一休みしてからアレフガルドに向かおう」
「うん、そうだね」
間もなくユキがたたたっと走ってきた。
「お待たせー。…何のお話してたの?」
「ん?いや、特には」
「そう。じゃ、行きましょうか」