「はぁ」
思わずため息が洩れる。
なんで俺はこんなに高いところにいるんだ。
さっさと用事を終えて帰りたい。
ラダトームを発った俺たちは
不本意ながら、竜王のひ孫の言うとおりに
かつてメルキドという町があったあたりの島に到着した。
特に何の変哲もない島にある建造物は
俺たちが今まで見たこともないような高い塔だけだった。
「塔ね」
「ああ」
「ここに登れってことかな。あそこ、入口があるよ」
「でもここで何をすればいいのかしら」
「さあな」
「んー、きっと何かアイテムでもあるんじゃない?」
「とりあえず入ってみましょう」
「…そうだな」
そうやって俺たちはその塔に入った。
しかし…。
「また行き止まりだわ」
「本当に上にいけるのかなあ」
塔の1階は思いのほか入り組んでいて
何度も行き止まりに突き当たってしまう。
壁や床がずっと同じ感じで続いているからよけい
迷ってしまうのだろう。
しかも敵も竜王の城に出現するものより強い。
目的もわからないままただ戦闘をこなし
道に迷いながら歩いているうちにだんだん疲れてきた。
まあそうこうしながらもどうにか
上に登る階段を見つけ、嬉々として昇った先が
いきなり塔の外周部分で冒頭のため息に繋がった。

「…何で壁がないんだよ」
「ん?何か言った?うっわあ!風気持ちいいねー」
ナオとユキは案の定身を乗り出して外を見ている。
俺はもう帰りたい気持ちでいっぱいだ。
外から吹き寄せる風に足がすくむ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずかふたりは先に進んでゆく。
「おい、あまり離れると危険だぞ」
「あーはーい。カイもはやくおいでよー」
おいでおいでと手招きをされる。
何でこいつらは高いところだとテンションが上がるんだ。
ここしか道はない。…仕方ない。
俺は腹を括ってそろそろと先に進んだ。
!
誰かいるぞ?
暗がりの先にいるのは…グレムリン?
こんなところで何をしているのだろう。
そう思っていたら、グレムリンは壁を抜け
先に行ってしまった。

この壁、抜けられるのか…。
俺たちも後に続く。
グレムリンとの戦闘を覚悟して抜けた壁の先には
ひとりの老人が居た。
こんな、モンスターがうようよ居る塔に居るなんて
あからさまに怪しいんだが、どうするべきか。
とか思ってたらナオがいきなりつかつかと
その老人の元に歩いていった。
「あのー何してるんですか?」
…あいつ疑うこと知らなすぎだ。はぁ。
だが。その老人はナオよりもさらに変わり者だった。
「何も言わなくとも爺には分かっておりますぞ。
紋章のある場所へ案内してさしあげましょう!」
そう言うといきなり歩き出した。
…返事も聞かずに行くか?普通。
大体紋章って何だよ。

「カイ、わたしたちはどうする?」
ユキが不安そうに聞いてくる。
やはりユキもあのじじいは怪しいと思ったのだろう。
「あからさまに怪しいが、何か知ってることは確かなんじゃないか?
とりあえず付いて行ってみるか」
「どうしたの?早く行こうよー」
疑うことを知らないナオが向こうで呼んでいる。
「今行く!ちょっと待ってろ」
「はーい」
それから先はあっという間だった。
そのじじいはとてつもない足の速さで
俺たちは付いて行くのがやっとだった。
ユキなんか息を切らしている。
…何者だあのじじい?
じじいは階段を1段飛ばしで駆け上がる。
俺たちがくるまで上で立ち止まっていたが
俺たちが到着するとまた駆け出した。
この壁がない塔の外周を走るなんて
あのじじいは命が惜しくはないのか?
そうして俺たちはじじいに案内されて
ひとつの宝箱がある部屋に着いた。
「さあ、あの宝箱を開けなされ」
宝箱の手前に立ち止まり、指差す。
…怪しい。

頭に何かがひらめいた。
「ナオ」
「ん?開けないの?」
「ああ、それは後だ。笛を吹け」
「はい?」
「初仕事だ。ぱぷぺぽ係。重大任務だぞ」
「えー」
何だか嫌そうだ。
俺はチラっとユキの方を見た。
そこら辺はユキも分かっているのだろう。
「ナオ、わたし、笛の音聞きたくなったわー」
とたんにナオの目がキラキラと輝き、
かばんをがさがさと探して笛を出した。単純だな。
「よーし、吹くぞおー」
ぱぷぺぽ~~~ぷ・ぺ・ぽ~~~~!山彦が返ったぞ。
やっぱりここには何かがあるんだ。
「準備はいいな?開けるぞ」
「うん」
ぱかっ。
「あれ、空っぽだ」

どこからともなく声が聞こえる。
「ケケケ…!引っかかったな!
ここがお前たちの墓場になるのさ!」

やはり罠だったのか。
後ろを振り向くとじじいの姿はすでに無い。
部屋の四隅にグレムリンが現れた。

そのうちの1匹が俺たちに「馬鹿め」と言う。
…あのじじいの声だ。
4匹のグレムリンが俺たちに襲い掛かってきた!
とは言うものの、グレムリン程度は別に怖くも無く
ユキの
ラリホーで眠り込んだ所をあっさり倒すことができた。
倒したグレムリンたちは音も無くすうっと消えた。
と、じじいだったグレムリンが居たあたりの床がきらっと光る。
きっとあいつが何か落としたのだろう。とりあえず拾う。
それは掌に乗る位のサイズの石で
真ん中に星のマークがついていた。
そうか、これが星の紋章か。
大事にポケットにしまった。

「これでここでの用事は終わりか?」
「うん、そうだね。じゃ、帰ろうか。
しっかりつかまっててね。
リレミト!」
そして俺たちは塔を後にし、
ルーラでラダトームに戻った。